脊椎診察は、患者さんが診察室の入室されたときから始まり、姿勢や歩行の様子を観察します。
問診では、症状の内容、起こり方、部位その程度などを詳しく聴取します。その上で、神経学的検査(筋力測定、知覚検査、腱反射、各種誘発テストなど)を行います。
以上の所見から脊椎の病気を推定して、下記の中から必要な検査を選択します。
基本として正面・側面像を行いますが、椎間または椎体の不安定性を調べるために動態(機能)撮影を追加することがあります。 | ![]() |
側弯症や全脊椎のバランスの評価のために股関節や骨盤骨を含めた全脊椎の正面・側面像を行うことがあります。
脊椎骨の形態を正確に観察することが可能で、コンピューター処理により任意の角度で画像を再構成することができるので、脊椎骨折や靭帯骨化症など診断や治療計画を立てるのに有効です。
また脊髄造影検査と併用するとより精密な診断が可能となります。
強力な磁力線をつかった検査で、脊柱管内の神経組織の状態を詳細に観察できるので、頚部脊髄症や椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症の診断に有効です。
また脊椎(骨)の状態もよくわかるので、脊椎腫瘍や脊椎炎の診断にも威力を発揮します。
骨粗鬆症による「いつの間にか骨折」や脆弱性骨折(立位からの転倒以下の外力で生じる骨折)の既往のある方の「腰痛」患者さんの精査にも行います。 |
骨密度測定装置
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現在では施行することも少なくなりましたが、MRI非対応の体内物留置されている場合の脊柱管内の検査として行いますが、造影剤アレルギーや一部の糖尿病治療薬などの休薬が必要なことがあります。 |
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坐骨神経痛の椎神経根高位の検索目的に、X線透視下に神経根近傍に造影剤を注入し再現痛の有無を確認後、疼痛緩和目的に麻酔薬などを注入(神経根ブロック)することにより治療効果が得られます。
「上肢の痺れ」に対し頚椎疾患と末梢神経疾患(手根管症候群や肘部管症候群など)との鑑別に、また「下肢の痺れ」や「足関節・足趾の運動障害」に対し胸腰椎疾患と末梢神経疾患(腓骨神経麻痺や糖尿病性神経障害など)との鑑別に用いることがあります。
「間歇跛行(しばらく歩くと下肢に痛みやしびれを生じ、少し休むとまた歩けるようになる症状)」がある場合「腰部脊柱管狭窄症」の可能性もありますが、動脈硬化により下肢への十分な血液を送ることができなくなる「閉塞性動脈硬化症」によって生じる場合もありその鑑別目的に行います。
以上の詳しい検査を組み合わることにより正確な診断を行います。
その上で、患者さんと十分なインフォームド・コンセント(説明と同意)を行い、どのような治療法を選択するかを決定します。
病院を受診される患者さんの愁訴のなかで最も多い腰痛・肩こりや四肢のしびれ・痛みの原因である脊椎疾患は、日常生活指導を含めた保存的治療(薬物治療やコルセットによる治療、リハビリ)を原則としています。ブロック注射(神経周囲に局所麻酔薬とステロイド剤を注射する方法)は、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などに有効です。
しかし保存的治療が奏効しない場合や、早期に社会復帰を果たしたいと希望される患者さんには、積極的なインフォームド・コンセントにより患者さんに医療情報を提供して手術的治療を行っています。
その際、当院では患者さんへの負担ができるだけ小さい手術を心がけています。
呼吸症状がない外傷症例に対しては自家骨およびチタンプレートを用いた固定を行います。 (呼吸障害を合併している症例では、後に気管切開の必要性が生じるので後方除圧固定術を行います)
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外傷症例![]() |
頚椎症性神経根症や頚椎椎間板ヘルニア症例において、不安定性・後弯・変形や骨粗鬆症の強いと思われる症例については自家骨を充填したcageを用いた固定を行います。
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変性疾患症例1
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変性疾患症例2 |
当院では2021年1月よりジンマーバイオメット社製のMobi-C®を使用した頚椎人工椎間板置換術を行うことが可能(有資格:竹下博志医師)となりました。
頚椎人工椎間板置換術は、前方除圧固定術と同様に頚椎椎間板ヘルニアや頚椎症性神経根症に用いられる術式です。
海外では10年以上の歴史があり、本邦では2018年に上記機種がPMDAにより認可され、今後普及することが期待されています。
この術式は前方除圧固定術と異なり、可動性を保持するインプラントを使用する事により、手術高位の上下椎間板への負担を軽減し、隣接椎間障害の確率を下げるメリットがあります。
ただし、頚椎の不安定性・後弯・多椎間障害・骨粗鬆症の方などには適応はなく、全ての患者さんに行えるわけではありません。
診察・検査ののちに適応であるか判定させていただきますので、一度ご相談ください。
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手術用顕微鏡を用い、頚椎後方の筋付着部である棘突起を縦割することによって筋肉自体の損傷を最小限に展開し、ハイスピードドリルを用いて頚椎の椎弓切除を行い脊髄の圧迫を解除します。電気メスで椎弓から筋肉を剥がしていた時代の手術と比較して筋の損傷が少なく、術後創部痛の軽減や創部の回復も早いように思われます。
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頸部脊髄症に対する選択的椎弓切除術
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皮膚に約2.5㎝の切開を加えて外筒(チューブラー レトラクター)越しに、内視鏡カメラと手術器械を挿入し、液晶モニターで観察しながら神経を圧迫しているヘルニアを摘出する方法です。
ヘルニアの内視鏡手術は、ヘルニアの高位、脊椎変形の程度を考慮して患者さんにとってメリットが大きい場合にお勧めしています。
従来の顕微鏡を用いた方法より創部の大きさが5mmほど小さいという利点があります。
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内視鏡によるヘルニア摘出術
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手術用顕微鏡で観察しながら、ハイスピードドリルを用いて棘突起の一部と腰椎椎弓をトランペット状に削ることによって脊柱管を拡大し、神経組織の圧迫を取り除く方法です。
従来法と違って棘突起・椎弓から腰背筋を剥がすことなく、筋組織を傷めることが少ないので、術後の創部の痛みも軽く、早期に離床して歩行が可能となり、術後1週間程度のリハビリの後に退院が可能となります。
筋肉温存型腰椎椎弓間除圧術
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腰部脊柱管狭窄症に対する筋肉温存型腰椎椎弓間除圧術 前・後のMRI
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高齢になると椎間板が潰れたり、椎間関節が変形したり、また背骨を支える筋肉(脊柱起立筋)が弱ったりして、その結果脊椎の配列が乱れて極端な後弯(円背)、側弯(横曲がり)が生じることがあります。
また脊髄神経が入っている脊柱管が狭くなって、脚のしびれや痛みを生じることがあります。
そうなると慢性的な腰痛や下肢痛が生じ、また姿勢不良のため日常生活に大きな支障が生じてお困りの患者さんも増えてきました。
従来の脊椎変性を矯正する方法は、患者さんへの負担が大きく、あまり広まってはいませんでしたが、近年比較的手術侵襲が少ない矯正手術が行われるようになりました。
これは、脊椎の側方(横腹)から小さい切開で椎間板にスペーサーを設置し、さらに後方から経皮的(皮膚を小さく切開するが筋肉は直接に切開しない方法)に金属スクリューを挿入して変形を矯正する方法です。
側方進入椎体固定のシェーマ
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側方進入椎体固定術
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骨粗鬆性椎体骨折(いわゆる圧迫骨折)に対し、当院では2022年2月より、「骨粗鬆症性椎体骨折ステント留置術(VBS)」と呼ばれる治療法を開始いたしました。これは、骨折した椎体にステントを挿入しバルーンを膨らませ留置することによって骨片整復し、セメントを充填する手技です。骨粗鬆症性椎体骨折で生じた痛みによって座位がとれず寝たきり傾向の方や骨癒合せず空洞形成が生じ痛みが軽快しない方が対象となります。
従来の手技「経皮的椎体形成術(BKP)」と比べ、復元した椎体高を椎体用ステントで維持することにより、バルーン抜去後も椎体高の矯正損失を防ぎ、セメント充填および硬化までの椎体高の維持を行うことが可能となります。
骨粗鬆症性椎体骨折ステント留置術 手順(概要)
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骨粗鬆症性椎体骨折ステント留置術の術前・術後
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※ 整形外科の疾患、外傷およびその治療法につきましては、日本整形外科学会のホームページ(https://www.joa.or.jp/)に詳しく解説されています。