脳神経血管内治療科部長(脳神経内科)
脳神経血管内治療センター長
武澤 秀理
|
|
|
|
|
|
脳神経血管内治療とは、鼠径部(足の付け根)や腕(手首や肘)の血管から、頭部や頚部の血管まで、カテーテル(細く長い管)を挿入し、血管の内側から、脳・脊髄・頭頚部の病気を治療する方法です。脳神経血管内治療では、開頭手術のように皮膚を切ったり、頭蓋骨を開けることなく、病気を治します。
脳神経血管内治療は、1980年代後半にマイクロカテーテル(外径1mm以下の非常に細いカテーテル)が開発され、それから飛躍的に発展しました。1992年には「脳血管内手術」として保険収載され、現在に至っています。
当院では、2018年4月に最新鋭の血管撮影装置(Philips社 Allura Clarity FD20/15)を導入し、より安全で効果的な治療が低被曝で実施できるようになりました。それに伴い、脳神経血管内治療センターを開設しました。
当院の脳神経血管内治療センターでは、脳神経血管内治療専門医の武澤秀理(脳神経血管内治療科部長)と、インターベンショナルラジオロジー学会指導医の勝盛哲也(放射線科主任部長)、脳神経外科、脳神経内科担当医がチームを組み、治療にあたっています。
センター長の武澤医師は2015年〜2016年 フランスパリ市 Fondation Ophtalmologique Adolphe de Rothschild(ロスチャイルド財団病院)に臨床留学し、脳神経血管内治療を学びました。
2016年5月から当院に着任し、脳神経血管内治療を実施しています。
脳の主幹動脈が血栓で詰まると、意識障害・片麻痺など重度症状が突然発症し、数時間のうちに脳は回復不能な状態である脳梗塞に陥るので、一秒でも速く再開通する治療が望まれます。
現在では特殊な形状のカテーテルで血栓を除去する治療(経皮的脳血栓回収術)が可能になっています(図1)。
2015年に発表された大規模臨床試験で、内科的治療であるrt-PA点滴静注療法では、5人に1人の患者さんしか生活が自立できませんが、経皮的脳血栓回収術を追加すると、3人に1人の割合で生活が自立することが報告されました。
脳梗塞の超急性期治療は、血栓回収療法の時代に入りました。脳卒中診療ガイドライン2021では、脳主幹動脈の脳梗塞超急性期治療として経皮的脳血栓回収術が強く推奨されています。そしてその適応が発症から24時間以内の患者さんの一部にまで広がっています。
滋賀県循環器病対策推進基本計画では、この経皮的脳血栓回収術について『適応者に速やかに血栓回収療法が実施できる』と目標を掲げていますが、この治療を担う専門医(脳神経血管内治療専門医)数が少ないことが問題となっています。
当院では脳神経血管内治療専門医が中心となり、2021年(1月〜12月)には51例の血栓回収療法を施行しております。
また、当院では脳梗塞超急性期治療開始までの時間短縮対策にも病院一体となり取り組んでいます。
病院前診療では、救急集中治療科がドクターヘリやドクターカーを活用し迅速に搬送し、病院到着後そのままCT室に直行します(direct CT)。
CT検査では、脳血管の状態まで把握できるようにCT angio graphy(CTA)を併用することにより、MRI撮影を省略でき時間短縮が可能です。
そしてCTAにて脳主幹動脈閉塞確認後、脳アンギオ室に直行し治療開始する体制を整えています。
後日、これらの治療経過(発症から病院搬送まで、搬送後から治療開始までの時間)について、振り返りのカンファレンスを行い、皆で問題点を共有しています。
こちらも併せてご覧ください。
脳梗塞や一過性脳虚血発作を発症した頚部頚動脈狭窄で、中等度以上の狭窄がある場合、頚動脈内膜剥離術(CEA)または頚動脈ステント留置術(CAS)で狭窄を解除します。
また、これまで脳梗塞や一過性脳虚血発作をおこしていない非症候性病変では、高度の頚動脈狭窄が治療対象になります。
どちらの治療法にも一長一短があるので、病変の位置や性状、患者さんの希望や全身状態を、脳神経外科と協議して治療方針を決めています。
頚動脈ステント留置術は局所麻酔で実施でき、治療は1〜2時間、入院期間は4〜7日です。
脳動脈瘤の治療は開頭クリッピング手術が主流でしたが、最近ではカテーテルによるコイル塞栓術が開頭手術と遜色のない治療成績を示しています。
この治療法は機器や技術の進歩が著しく、ダブルカテーテルテクニック、バルーンリモデリングテクニック、ステントアシストテクニックなどの技術を駆使することで、これまでは治療が困難だったネックの広い動脈瘤も治療できるようになりました(図2)。
また、2022年よりフローダイバーターステントを用いた治療も開始しました。
治療未破裂動脈瘤部位 | 件数 |
---|---|
内頚動脈瘤, 後交通動脈瘤 |
16 |
中大脳動脈瘤 | 4 |
前大脳動脈瘤, 前交通動脈瘤 | 4 |
脳底動脈瘤, 椎骨動脈瘤 | 7 |
合計 | 31 |
治療直後の動脈瘤状態 | 件数 | |
---|---|---|
有効な塞栓 |
30(97%) |
|
動脈瘤完全閉塞 |
21(68%) |
|
動脈瘤頸部残存 |
9(29%) |
|
動脈瘤残存 |
1(3%) |
Onyx液体塞栓システムLDは、2008年に脳動静脈奇形に対する塞栓術に、2018年に硬膜動静脈瘻に対する塞栓術において、薬事承認されました。
Onyx液体塞栓システムLDは、所定の研修プログラムを受けて認定されたOnyx実施医のみが使用できます。
センター長の武澤はOnyx実施医の認定をうけております。
また、フランス留学中に200件以上のOnyxを用いた塞栓術を研修しております。
当センターでも、これまでに脳動静脈奇形に対して17件(2016年~2022年)、硬膜動静脈瘻に対して10件(2019年~2022年)のOnyxを用いた塞栓術を実施しております。
慢性硬膜下血腫とは、頭を打った後に2週間から3ヶ月後に脳と頭蓋骨の間に血液が貯留する病気です。
高齢者に多く見られる病気です。通常は脳神経外科で穿頭血腫除去術をおこない治癒します。
抗血栓剤(血をサラサラにする薬)内服中の患者さんや肝障害がある患者さん等では、再出血を生じ、慢性硬膜下血腫を再発することがあります。
再々発を予防するために、脳神経外科で穿頭血腫除去術や開頭血腫除去術を行う術前や術後に塞栓術を行います。
2018年~2022年のこれまでに、22例の再発難治性または器質化慢性硬膜下血腫に対して塞栓術を行い、再々発した患者さんは1例だけです。
この症例では、術前に再度塞栓術を行いその後脳神経外科で穿頭血腫除去を行い、再々々発なく経過されています。
手術名 | 2020年 (1月~12月) | 2021年 (1月~12月) | 2022年 (1月~12月) |
---|---|---|---|
破裂脳動脈瘤塞栓術 |
7 |
5 |
6 |
未破裂脳動脈瘤塞栓術 | 10 | 7 | 20 |
脳動静脈奇形塞栓術 |
2 |
3 |
4 |
脊髄血管奇形塞栓術 | 0 | 0 | 0 |
硬膜動静脈瘻塞栓術 |
3 |
9 |
5 |
直接型頚動脈海綿静脈洞瘻塞栓術 | 0 | 0 | 1 |
頭蓋内腫瘍塞栓術 | 0 | 1 | 0 |
頭頚部病変塞栓術 | 0 | 0 | 0 |
その他塞栓術 | 8 | 3 | 9 |
頚動脈ステント留置術 | 7 | 9 | 13 |
頭蓋外血管形成術/ステント留置術 | 4 | 4 | 4 |
頭蓋内血管形成術/ステント留置術 | 5 | 4 | 5 |
脳動脈再開通療法 | 55 | 54 | 50 |
脳血管攣縮治療 | 1 | 3 | 3 |
その他の血管内治療 | 0 | 0 | 0 |
合計 | 102 | 102 | 120 |