病院紹介

1.救急搬送された急性心筋梗塞患者のdoor to balloon time

項目の解説

急性心筋梗塞ではつまっている血管に対し、いかに早く冠動脈カテーテル治療(PCI)を行い、再開通させるかが重要となってきます。病院へ到着(door)し、急性心筋梗塞と診断されると、緊急心臓カテーテル検査のため、点滴、術前の内服、尿の管の挿入やカテーテル室の準備を行います。そして、カテ-テル検査にてつまっている血管を見つけて、つまった血栓の吸引やバルーン(balloon)を膨らませ、再灌流療法を行います。そのために緊急招集されるスタッフの職種は医師、看護師、放射線技師、臨床工学技士であり、迅速性とチームワークが重要となります。


この指標では、病院到着から血流再開までの時間を計測し比較することにより、診断から治療という一連のプロセスの評価を行うことができます。一般的に「90分以内」というのが一つの目安となっています。

 

 

定義・計測方法


 

※1 ST上昇心筋梗塞(STEMI; 冠動脈が完全閉塞した急性心筋梗塞)の患者

※2 救急車搬入時間から血栓吸引もしくは初回バルーン拡張までの時間

以下を除く

・非ST上昇心筋梗塞(NSTEMI;冠動脈が部分閉塞した急性心筋梗塞)の患者

・経過観察や搬送当日に待期的にCAG(心臓カテーテル検査)、PCIを行う方針となった患者

 

 

年推移

 









急性心筋梗塞には心電図の結果から判断される、ST上昇心筋梗塞(STEMI)と非ST上昇心筋梗塞(NSTEMI)があります。「STEMI」は冠動脈が完全閉塞している状態で、早急に再灌流を行わなければならないため、緊急の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の適応となります 。90分以内に再灌流を行うと死亡率が下がる事が様々な研究で確かめられています。一方、ST上昇のない「NSTEMI」は、冠動脈がまだ完全には閉塞していない場合もあり、夜間や休日などの人的資源が少ない時間帯では、まず薬物治療を行って症状がなくなれば、慎重に観察しながらスタッフの揃っている日勤帯にPCIを行うこともあります。

当院における急性心筋梗塞(STEMI)の患者さんの、2022年度の救急車搬入(door)から再灌流(balloon)までの時間(door to balloon time;以下DTBT)の中央値は61分であり、この5年間は60分前後で実施できています。

グラフ2は、救急車の搬送時間帯別のdoor to balloon timeです。平日の日勤帯では52分でした。深夜を含む平日の時間外は68分であり、約15分の開きがありました。

グラフ3は、救急搬送からカテーテル室入室までの時間と入室から再灌流までの時間を時間帯別でみたもので、入室から再灌流まで時間帯により搬送からカテーテル室入室までの時間に最大約10分強の差があることが分かりました。

当院の搬送から治療までの時間短縮への取り組みとして、ドクターカーとヘリによる病院前救急診療があります。平日時間内では当院のドクターカーが、また、平日・休日の8時30分から日没まではドクターヘリが出動し、急性心筋梗塞などの心疾患が疑われると診断された場合には、当院到着後、救急センターに搬入せず、直接カテーテル室へ搬入し、従来センターにて行っていた処置等を行うように心がけています。グラフ4は、ドクターカーとドクターヘリで搬送された患者さんのDTBT、救急搬送からカテーテル室入室までの時間と入室から再灌流までの時間です。ドクターカー、ドクターヘリのDTBTはそれ以外の症例と比べて16分短くなっており、また、ドクターカーとドクターヘリの方が搬送から入室までの時間も短くなっており、ドクターカーやヘリは搬送から治療までの時間短縮にも有用であることが分かります。

今回の分析では、DTBTは90分以内で施行されており、時間短縮への取り組みに一定の効果が表れていることが分かりました。一方、時間帯によって差があることが分かりました。この結果を現場へフィードバックし、時間外当直医(循環器内科医以外)への啓発などを行い、更にDTBTの差を短縮できるよう取り組んでいきたいと考えています。