診療科・部門

下部消化管疾患

 

下部消化管疾患の手術について

下部消化管に対する手術では、大腸がんに代表される悪性疾患を中心に、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)や大腸憩室症などの良性疾患、痔核や痔ろうなどの肛門疾患、虫垂炎や腸閉塞、大腸穿孔などの緊急を要する疾患など、大腸・肛門疾患全般を対象に行っています。

特に大腸がんに対する手術では、高度の技術を要する腹腔鏡手術を中心に行い質の高い医療を提供しています。また2018年4月から直腸がんに対するロボット支援下手術が保険収載となり、当院でも保険診療が可能です。

 

大腸がん

大腸がんは大腸(結腸・直腸)の粘膜から発生するがんで、近年日本で増加している悪性腫瘍の一つです。大腸がんに対する治療は手術が中心となり、早期がんはもちろん、進行がんであっても、切除可能な時期であれば手術によって完全治癒が期待できます。大腸がんの手術は近年大きく進歩を遂げており、低侵襲で整容性にも優れた腹腔鏡手術が急速に普及しています。

 

当院では大腸がんの治療として腹腔鏡手術を早期から導入し、現在は大腸がんに対する標準手術として多くの症例に行っています。2017年の大腸がん手術症例は79例で、そのうち68例(約86.1%)に腹腔鏡手術を行いました。大腸がんは発症する部位により術式・難易度が大きく異なりますが、比較的難易度が高く予後不良とされる直腸がんに対してはロボット支援手術も積極的に導入しています。

 

当院では体への負担の少ない腹腔鏡手術・ロボット支援手術のメリットを最大限に生かすために、周術期管理に関しても最新のプロトコールを取り入れて行っており、術後の速やかな回復によって従来よりも入院期間を短縮し、早期の社会復帰を実現しています。

 

当院の大腸がん手術ではがんを確実に治療するだけでなく、新しい技術を取り入れながら少しでも患者様の負担の少ない手術を考えるようにしています。

 

 

 

肛門温存

直腸がんに対する手術では肛門を温存できるかどうかが大きな問題になります。肛門近くの直腸がんの場合、従来ではがんとともに肛門も切除して永久人工肛門を作ることが一般的でしたが、現在では肛門を温存しつつがんを切除することも可能なことが多くなっています。これは骨盤深部の操作が可能な腹腔鏡手術やロボット支援手術に加え、肛門の一部だけを切り取ってがんを切除しながら肛門を残す術式(内肛門括約筋切除術)等、様々な技術的進歩により多くの場合で自然肛門を温存して永久人工肛門を回避することができるようになりました。

このような手術により可能な限り肛門を温存する治療を行うよう努めています。

 

また進行した直腸がんでは、手術の前に抗がん剤と放射線治療を併用して行い(術前化学放射線治療)、がんを縮小させた後に手術を行っています。これによって手術での肛門温存を図るとともに、直腸がんに多い術後の局所再発をできるだけ減らすようにしています。

しかしながら、肛門温存術式は肛門機能の低下による術後の排便障害(排便回数の増加や便漏れ)の問題もあり、直腸がんの手術では、それぞれの患者様の病状に合わせた最善の治療を提供することを心がけています。また、やむを得ず人工肛門(ストーマ)を造設した場合でも、当院では専門外来として「ストーマ外来」を設置し、ストーマをお持ちの患者さまへの長期的なサポートを行っています。

 

「ストーマ外来」では、ストーマに関するさまざまなトラブルや悩みに対して専門の看護師(皮膚・排泄ケア認定看護師)が個別に対応し、患者さまが日常生活を快適に過ごされるようお手伝いします。

 

 

集学的治療

大腸がんの多くは手術で治癒しますが、進行した大腸がんでは手術後に再発や転移を認めることがあります。このような危険性が高いと考えられる場合には、再発を予防する目的で術後に抗がん剤を内服あるいは点滴で投与します(術後補助化学療法)。

 

また、手術ができないほど進行したがんや手術で取りきれなかったがんに対しては、がん細胞の成長を抑える目的で化学療法を行います。

近年の大腸がん化学療法の進歩は目覚ましく、分子標的薬などの有効性の高い薬剤を組み合わせることで治療成績は著しく向上しており、手術による切除が不可能と思われたがんが縮小して切除可能になる場合もあります。

 

当院では、化学療法や放射線治療などの手術以外の治療についても、消化器内科や放射線科等、各科で連携しながら最新の知見に基づいた集学的治療として有効かつ安全に行えるよう取り組んでいます。

 

 

ロボット支援下手術

ロボット支援下手術では、「da Vinci(ダビンチ)」という最先端の手術支援ロボットを用いることで精度の高い手術を行うことが可能となります。大腸がんの中では特に直腸がんでこのロボット支援手術が有効とされており、外科領域の中で保険適用は2019年時点では直腸がんのみとなっています。直腸がんに対するロボット支援手術は日本内視鏡外科学会で厳しい術者・施設基準が設定されており実施できる施設は限られていますが、当院はそのいずれの基準も満たしており安心して治療を受けていただくことができます。

 

ロボット支援下手術は腹腔鏡手術と同様、体に小さな穴をあけてカメラや鉗子を挿入し手術を行います。腹腔鏡手術と異なる点は、ロボット手術で用いる鉗子は手振れ防止機能を備えその先端は人間の手以上の可動域を有します。鉗子先端を自由に曲げることができるため、自然な操作感とともに術野での繊細な操作が可能となります。また、高解像度で立体的な3D画像を通して術者は狭い骨盤腔内でも細い血管や神経線維を拡大して観察することが可能です。

 

これらの特長により繊細かつ緻密な手術を行うとともに、直腸周囲を取り巻く骨盤神経叢(性機能・排尿機能に携わる)をより確実に温存し、がんの根治性だけでなく排尿・性機能などの機能温存も期待できます。また、狭い骨盤深部での手術操作が可能となることにより、従来よりも肛門に近い下部の直腸がんでも肛門を温存できる可能性が高くなります。

 

 

肛門疾患

肛門疾患には痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)、痔瘻(あな痔)などがあります。症状が軽度の場合は薬物治療で改善しますが、出血や脱出などの症状がひどい場合には手術が必要になります。

痔核に対する手術では、一般的な結紮切除法だけでなく、ジオン注射療法(薬物を注入して痔核を硬化)などの新しい治療法を取り入れており、これらを組み合わせることで術後の痛みの軽減や入院期間の短縮を実現しています。