鼠径部(下腹~足の付け根の部分)の膨らみや違和感が気になっていませんか?
それは鼠径ヘルニアかもしれません。鼠径ヘルニアは自然には治らず、手術によってしか治せない病気です。当院では、局所麻酔下手術、傷の小さな腹腔鏡下手術、新しく保険収載されたロボット手術など様々な手術法の中から患者様一人ひとりの状態・背景、ご希望に合わせた最適な手術法をご提案し、ご満足いただけるよう全力で安全・安心で丁寧な手術を行っております。体への負担を最小限にしながら、質の高い手術を受けていただけるよう、専門の外科医がチーム一丸となってサポートします。
目次
| 01. 鼠径ヘルニアとは | 08. 手術に伴う主な合併症 |
| 02. 鼠径ヘルニアの症状 | 09. 当院の治療実績 |
| 03. 鼠径ヘルニアの原因 | 10. 入院前から退院後までの流れと、復帰の目安 |
| 04. 鼠径ヘルニアの種類 | 11. 当院の特徴 |
| 05. 治療の必要性 | 12. 地域中核病院で鼠径ヘルニア手術を受けるメリット |
| 06. 手術の方法 | 13. 患者様、ご家族様へ |
| 07. 麻酔方法について | 14. よくあるご質問(FAQ) |
鼠径ヘルニアは、腸などの臓器がお腹の壁(腹壁)の隙間を通って皮膚の下まで脱出し、下腹部から足の付け根が膨らむ病気です。いわゆる「脱腸」で、自然には治らず、治療法は手術のみです。
「鼠径(そけい)部」とは下腹から足の付け根にかけての領域であり、足を上げたときに曲がる部位よりも上方の領域となります。「ヘルニア」とは体の一部分がはみ出る、突出する状態のことを言います。鼠径ヘルニアの場合はいわゆる「脱腸」、すなわち腸がお腹の中から外へはみ出て突出している状態です。「鼠径ヘルニア」とは腸がお腹の中から筋肉の隙間を通って皮膚の下まではみ出てくるために、下腹から足の付け根にかけての領域が膨らんでしまうという病気です。
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男性の場合:下腹から足の付け根の上の部分が腫れます。大きくなると陰嚢まで腫れが広がります。 |
女性の場合:下腹から足の付け根の上の部分が腫れます。大腿ヘルニアでは足の付け根のすぐ下(青い範囲)が膨らみます。 |
鼠径ヘルニアの典型症状は、下腹部から足の付け根の膨らみと違和感です。初期は立位や歩行時に膨らみ、横になると戻るのが特徴です。進行すると戻らなくなり、急に硬く痛む「嵌頓(かんとん)」は緊急手術が必要な危険な状態です。
鼠径ヘルニアに気付かれるきっかけは主に2つあります。一つは、特に症状はないものの、お風呂上りなどに鏡で鼠径部(下腹~足の付け根の部分)が膨れていることで気付く場合です。もう一つは、足の付け根に違和感や軽い痛みを覚え、見たり触ったりすると膨らんでいることに気付く場合です。
立ったり座ったりしている際にはお腹の中の内臓全体の重みが鼠径部にかかるため、膨らみやすいです。一方寝た状態になるとお腹の中の内臓の重みがお腹の上の方にも逃げるため、鼠経部への負担が減り膨らみは自然と戻ります。起床時は膨らみを感じないが夕方になると鼠径部の膨らみやだるさ、痛みを感じるというのが初期に起こりやすい症状です。
鼠径ヘルニアは放置すると段々と進行します。はじめは横になる(寝転ぶ)だけで戻っていた膨らみが、ある程度進行すると、ふくらみが大きくなるだけでなく横になっても自然とは引っ込まなくなってきます。こうなると自身で膨らんでいる部分を押し込んで引っ込めるようになります。またこの頃には違和感や痛みが増強してくることもあります。
さらに進行してくると自身で押し込んでも引っ込まなくなってきます。こうなると痛みや違和感が増強してくるばかりでなく便秘となってくることもあります。最も怖いのは急激に腫れが強くなり引っ込まなくなる「嵌頓(急性非還納)」状態です。
鼠径ヘルニアは放置しても治らず、徐々に進行します。最も危険なのは、脱出した腸が根元で締め付けられる「嵌頓」で、腸閉塞や腸の壊死を起こし、命に関わることもあります。症状が軽いうちの手術が重要です。
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鼠径ヘルニアが最も問題となる状況は「嵌頓(かんとん)」とよばれる、飛び出した腸が根元で締め付けられてしまう状態です。急に膨らみが押さえても戻らなくなり、膨らんでいる部分が痛みを伴って硬くなってきます。急に戻らなくなることから「急性非還納状態」とも言います。 |
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鼠径ヘルニアの原因は、先天性(鼠径管が閉じずに残る)と後天性(腹圧の上昇や腹壁の脆弱化)に分かれます。後天性では、立ち仕事・重労働・慢性的な咳や便秘・加齢による筋肉の衰えなどが背景となり、ご高齢の方や立ち仕事・重労働の方に多く生じます。
鼠径ヘルニアには、生まれつきの原因で幼少期に発症するもの(先天性)と、生まれてから後に発症するもの(後天性)があり、原因は異なります。
男性の場合、精巣(睾丸)は生まれる前にはお腹の中に存在していますが、お腹の中は温度が高く、精子を作り出す能力を十分に発揮することができません。精巣の冷却装置が陰嚢ですが、生まれるまでの間に精巣はお腹の中から外に出て陰嚢に移動します。この際精巣が通るお腹の中と外を結ぶトンネルのことを「鼠径管」と呼びます。
通常鼠径管と呼ばれるトンネルは精巣が通った後には自然と閉鎖し、精巣に出入りする血管や、精巣で作られた精子が運ばれる管だけが通る細い筋となります。しかしこのトンネルが自然と閉じずに開いたまま残ってしまうと、お腹の中の腸がそのトンネルを通ってお腹の外へとはみ出てくることになります。これが幼少期に発症する鼠径ヘルニアの原因です。
なお、女性の場合は生まれた後も卵巣はお腹の中に留まったままですが、鼠径管は存在しており、その中をお腹の中にある子宮を支える靭帯のうちの一つが通っています。
腸を含めた内臓はお腹の中にぎゅうぎゅうに押し込まれています。腸はお腹の外へと常に押し出ようとしているわけですが、これを腹筋などでできたお腹の壁(腹壁)が押さえ込んでいます。後天的に起こる鼠径ヘルニアの原因は大きく二つあり、一つは腸が外へと飛び出る力(これを腹圧といいます)によって、生まれる前に閉じていた鼠径管と呼ばれるトンネルが再度押し広げられてしまった結果、このトンネルを通ってお腹の中の腸や内臓脂肪がお腹の外へとはみ出るというものです。もう一つは内臓が外に飛び出ようとする力がお腹の壁の強度を上回ることで、お腹の壁が押し広げられたり、お腹の壁に孔が開いたりして腸や内臓脂肪がお腹の外へと飛び出してくるというものです。
では、腹圧によってトンネルが押し広げられる状況、あるいはお腹の壁が押さえ込む力を腹圧が上回る状況というのはなぜ起こるのでしょうか。これには大きく二つあり、一つは腹圧が通常よりも高い状況、もう一つはお腹の壁そのものが弱ってしまった状況です。
腹圧が通常よりも高い状況とは、一日中立ちっぱなしの仕事や、重いものを持つことが多い仕事に従事していたり、スポーツ選手、喘息などで咳をすることが多い、便秘でいつも強く息んでいるなどの理由で、通常よりもお腹に入る力が強い場合に生じます。また、お腹の壁そのものが弱ってしまう状況とは、ご高齢になられたり、急激に痩せるなどして筋肉が薄くなったりした場合に生じます。
したがって後天的に鼠径ヘルニアになられる方は、ご高齢の方か、ご高齢でなくても立ち仕事や重労働をされている方が多いということになります。
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鼠径ヘルニアは、外鼠径ヘルニア(間接型)・内鼠径ヘルニア(直接型)・大腿ヘルニアの3つに分類され、それぞれ病態が異なります。特に大腿ヘルニアは孔が小さく嵌頓しやすいため、緊急手術が必要になりやすいのが特徴です。
まずお腹の壁(腹壁)の構造について説明します。一番内側は腹膜と呼ばれる薄い透明の膜です。腸を含めた内臓は全体が腹膜によって包まれ保護された状態となっています。腹膜は風船のようなもので、薄く柔らかいため強度はありませんが、伸び縮みできる柔軟性があります。腹膜の外側には筋肉やそれを包む筋膜などでできた壁(腹壁)があります。腹壁は何層もの筋肉が重なる形で形成されており、かなりの強度があるため腸などの内臓が押し出ようとする力(腹圧)に耐えることができます。

次に鼠径管の構造について説明します。「鼠径ヘルニアの原因」で説明したとおり、鼠径管とは精巣がお腹の中から外へと移動する際に通ったトンネルですが、図に示すようにこのトンネル(水色の部分)は腹壁を形成している筋肉と筋肉の隙間を横向きに走行するように存在しており、その入り口(お腹の中側)と出口(お腹の外側)はそれぞれ上下の筋肉に孔が開く形で形成されています。

鼠径ヘルニアは3つのタイプに分類されており、それぞれ病態が異なりますので以下それぞれの分類ごとに病態を説明します。どのタイプのヘルニアにも共通して言えることは、お腹の中にある腸や内臓脂肪が腹膜を被った状態でヘルニアの孔を通ってお腹の外側へとはみ出るということです。
本来であれば生まれる前に閉じるはずであった鼠径管が閉じなかったり、生まれる時点で一旦閉じていた鼠径管が生後に再度開いたりした場合に、お腹の中の腸や内臓脂肪がトンネルの入り口からトンネルの内部に侵入することで生じるヘルニアです。トンネルの内部に侵入した時点でトンネルの体表側の壁がぐっと外側へと押される形になりその部分が外から見ても膨らんで見えるようになります。さらに進行するとトンネルの中を進んだ腸がトンネルの出口から飛び出し、その先の陰嚢内へと侵入することで陰嚢が大きく腫れてきます。
前述のとおり鼠径管は筋肉と筋肉の間を横向きに走行しているため、外鼠径ヘルニアにおいては腸や内臓脂肪が横向きへと脱出してくるイメージです。

鼠径管は筋肉と筋肉の間を横向きに走行するわけですが、そのトンネルの側壁である内側(腹腔側)の筋肉そのものが腹圧に耐えられなくなると、筋肉が押し広げられる形でトンネルの側壁に孔が開き、お腹の中側からトンネル内へと腸が横入りしてくることでヘルニアとなります。トンネルの内部へと押し出された腸は、さらにトンネルの外側(体表側)の壁を押し上げますので結果的に外から見て膨らんで見えるようになります。
横向きに走行するトンネルに対して垂直に奥から表面へと押し出てくるため、腸や内臓脂肪が縦向きに脱出するイメージです。

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妊娠、出産回数の多いやせ型の高齢女性に多いタイプのヘルニアです。
心臓から出た一本の大動脈は胸からお腹へと下行し、下腹部で2本に分かれて左右の脚へと向かっていきます。この大きな動脈がお腹の中から両脚へと出ていくために通る孔を大腿輪と言い、脚の付け根に存在します。特に高齢でやせ形の女性の場合、この大腿輪に隙間ができやすく、その隙間を通ってお腹の中の腸や内臓脂肪が脚の方に向けて脱出することで生じるのが大腿ヘルニアです。
大腿ヘルニアで膨らむ場所は外鼠径ヘルニアや内鼠径ヘルニアで膨らむ場所よりも下であり、一般に皆さんが足の付け根と思っておられる辺りが膨らみます。
このヘルニアの特徴は、腸が飛び出す孔が小さいため、飛び出した腸が締め付けられやすい、すなわち嵌頓しやすいということです。急激に足の付け根の痛みが出現し、受診されると嵌頓状態で緊急手術が必要となるケースが多いです。 |
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※補足:学術的には「鼠径ヘルニア」という用語と「鼠径部ヘルニア」という用語は別の意味であり、「鼠径ヘルニア」と「大腿ヘルニア」を併せて「鼠径部ヘルニア」と呼称しています。一般には「鼠径部ヘルニア」という言葉よりも「鼠径ヘルニア」という言葉が普及しているため、ここでは便宜上「鼠径ヘルニア」の分類の一つとして「大腿ヘルニア」をご説明していることをご了承ください。
鼠径ヘルニアは診断された時点で、原則として手術の適応があります。薬では治らないため、根本的な治療は手術のみです。膨らみが小さく痛みなどの症状を伴わない場合に限り、経過観察を選択することもあります。
鼠径ヘルニアは放置しても治らない病気です。そして、お腹の壁に開いた孔を通って腸や内臓脂肪がお腹の中から外へと飛び出してくるという物理的な仕組みの病気であることから薬で治ることもありません。従って、基本的には鼠径ヘルニアと診断された段階で手術の適応があります。一方で症状が膨らみだけで程度が軽く、痛みなどの苦痛を伴わない場合は経過観察とすることもあります。ここでは手術の適応について詳しくご説明します。
普段は膨らんでも引っ込んでいたが、急に引っ込まなくなり、痛みや便が出にくいといった症状が出てきた場合(「嵌頓」や「急性非還納状態」といいます)は急いで手術が必要となります。さらに病状が進行すると、脱出した腸に血が通わなくなり(「絞扼」状態といいます)、最終的に腸が壊死に至りますが、こうなると命に関わる状態であり緊急での手術が必要となります。
痛みや便通異常はないものの、膨らんでいる部分を押さえても引っ込まない状態(「慢性非還納状態」といいます)については緊急ではないものの、早めの手術が必要です。また頑張って押し込むと何とか引っ込むというような状態でも、今後早い段階で嵌頓や絞扼状態となる危険性が高いため、早めの手術が必要です。
軽い膨らみがあるのみで痛みなどの苦痛症状を伴わない場合は経過観察とすることも可能ではあります。しかし、経過観察する中で徐々に増大したり、苦痛症状が出てきたりするなど進行してくる可能性が高く、外科医の本音としては鼠径ヘルニアと診断されたすべての方にできるだけ早い段階での手術をお勧めしたいところです。
当院では、鼠径部切開法(前方アプローチ)・腹腔鏡下手術(TAPP法)・ロボット支援下手術の3つの手術法すべてに対応しています。患者さん一人ひとりの状態・背景・ご希望に応じて最適な術式を選択します。現在はメッシュ(人工補強材)を用いるメッシュ法が標準術式です。
ヘルニアを治す方法は手術のみです。手術では脱出内容(腸や内臓脂肪)をお腹の中に完全に戻した上で、お腹の壁にあいた孔を塞ぎます。孔を塞ぐために、周囲の筋肉や組織を縫い寄せる方法(組織縫合法)と、人口補強材(メッシュ状のシート)で補強する「メッシュ法」の二つの方法があります。現在はメッシュ法を基本術式とし、組織縫合法は人工物であるメッシュを使用できない場合にのみ行うのが標準的な考え方です。メッシュ法には大きく3つのアプローチがあり、当院ではいずれにも対応することができます。いずれの方法も保険診療で行えます。
膨れている部分である鼠径部を4〜5cm程度切開し、外側からお腹の壁にあいた孔(ヘルニア門)にアプローチして、メッシュで修復する方法です。局所麻酔での手術も可能なため、全身麻酔のリスクが高い患者様にも安全に施行できます。様々な理由で腹腔鏡下手術やロボット支援下手術が行えない患者様は鼠径部切開法で手術を行います。
鼠径部切開法の中に様々な手術方法がありますが、当院では主に以下の3術式を行っています。
| 鼠径部切開法の世界標準術式でInternational guidelineと呼ばれる世界標準のガイドラインの中で最も推奨されている手術法です。孔のあいた腹壁に表側から広く平らなメッシュ状のシートを被せて腹壁を補強します。手術のコンセプトがシンプルで安定した成績が得られる術式ですが、鼠径ヘルニアの種類によっては難しかったり、術後慢性疼痛の予防が重要であったりと、安全安心な手術の施行のためには確かな知識、経験、技術が必要となります。 | ![]() |
| 形状記憶リングの入ったメッシュシートを腹壁にあいた孔からすぼませた状態で腹壁の内側(筋肉と腹膜の間)に入れ込み、そこでメッシュを展開させることで、腹壁を裏側から補強する方法です。メッシュの置く場所は腹腔鏡手術やロボット支援下手術と同じですので、全身麻酔のリスクのある患者様に腹腔鏡下手術と同じ内容の手術ができるというメリットがあります。日本では以前から比較的普及している術式ですので安心して受けていただけます。 | ![]() |
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日本のお家芸ともいえる、最も普及した術式です。腹壁にあいた孔をバドミントンの羽のような形をしたプラグと呼ばれる補強材で塞ぎ、さらに上から平らなメッシュシートをあてがい補強する方法です。日本においては極めて一般的な手術方法で、根強い人気があります。 |
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組織縫合法について
組織縫合法は主に以下の二つの場合に必要となることがあります。
①今後妊娠出産の可能性のある女性の場合
人工物であるメッシュを使用するメッシュ法、とりわけ卵巣や子宮の存在する腹腔に近い場所に大きなメッシュを留置する方法については、専門家の中でも賛否が分かれています。メッシュを卵巣や子宮の近傍に留置した場合、卵巣や子宮とメッシュが癒着することで何らかの影響がでないかどうかという点が気になるところです。メッシュの留置が明確に不妊や流産の原因となるという報告はないため、ガイドラインでもメッシュを使用した方法が推奨されていますが、一方で不妊や流産のリスクにはならないという証明もまだ十分とは言えません。若年女性の鼠径ヘルニアの場合はヘルニアの孔が小さいことが多く、メッシュを使用しない組織縫合法か、メッシュを使用するにしても小さめで周囲への影響の少ないタイプのメッシュを使用する方法を選択し、それで万一後々再発を来した場合は妊娠出産の可能性が無いご年齢になられてから改めてしっかりとしたサイズのメッシュを使用する方法で修復するという作戦が良いのではないかと考えられています。
なお、若年女性の場合、Nuck(ヌック)管水腫と呼ばれる水袋によって鼠径部に膨らみが生じている病態が合併していることが多くあります。この場合水袋の中に子宮内膜症の組織が存在することがあり、生理周期に一致した痛みや極めて稀ではありますが発がんのリスクもあるため、この場合は水袋を完全に切除する手術が必要となります。またヘルニアの種類によっては大きなメッシュを使った手術を行う必要があることもあります。
ヘルニアの種類、Nuck管水腫の有無、その他様々な要素を踏まえつつ、しっかりと患者様、ご家族様とご相談の上、採取的な治療方針を決定します。
②嵌頓状態の手術の場合
メッシュ法は腸を切除しないといけないような嵌頓状態の手術の際には行えないという欠点があります。メッシュは人工物であり、一度菌がつくと抗生物質が効かず、菌の温床となってしまいます。通常の鼠径ヘルニア手術は無菌で行えますので問題なく人工物であるメッシュを使用できますが、腸を切除するような手術となった場合、多少なりとも腸の内容物である便や腸内細菌が漏れ出ることになりますので、メッシュに細菌が付着し感染を引き起こすことになります。したがって、腸の切除が必要な嵌頓状態の手術においてはメッシュを使用せずに、腹壁にあいた孔の周囲の筋肉や組織を縫合して補強する組織縫合法を行います。
この場合、初回手術では可及的な修復にとどめ、後日菌が消えてから2回目の手術でメッシュを使用した手術を再度行う場合が多いです。
腹壁にあいた孔をお腹の中側からアプローチして修復する方法です。お腹に小さな穴を3か所開け、腹腔鏡と呼ばれる直径5mmの筒状のカメラと、処置を行うための鉗子と呼ばれるマジックハンドのような器具2本の計3本をお腹の中(腹腔)に挿入して行います。お腹の中から見ると腹壁は腹膜で覆われた状態となっていますので、まず、孔のあいた腹壁の部分を覆っている腹膜を切開してから、腹膜と筋肉の間にメッシュを留置し、その後切り開けた腹膜を再度縫い閉じます。この方法をTAPP法(Transabdominal Preperitoneal repair)と呼びます。鼠径部切開法よりも傷が非常に小さいため、痛みが少なく、鼠経部切開法よりも社会復帰が早いというメリットがあります。また、同じ傷で左右両方の鼠径部へのアプローチが可能であることから、一度の手術で両側とも鼠径部の観察を行い、両側に鼠径ヘルニアがある場合は同時に修復ができるのも大きなメリットです。
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元々、腹腔鏡下手術においては開腹術に比べて創の大きさが小さいため、体への負担が少ないのですが、通常の腹腔鏡下手術よりもさらに創の負担を減らした腹腔鏡下手術のことを低侵襲腹腔鏡下手術と呼びます。
創の負担の減らし方として、①創を小さくする、②創の数を減らすという二つの方法があり、手術の内容によってどちらが良いかは変わってきます。前提として腹腔鏡下手術においては腹腔内を観察するカメラ(腹腔鏡)と手術操作を行うための鉗子(マジックハンド)を最低2本挿入する必要があり、すなわち3か所の器具の挿入口が必要となります。
創の大きさがある程度小さい場合、創の痛みの強さは創の数よりも創の大きさに大きく影響されますので、可能であれば一つ一つの創を限りなく小さくする方がより創の負担や痛みを減らすことができます。虫垂炎(いわゆる「盲腸」)や胆嚢の手術(胆石症など)といった臓器を摘出する必要がある手術においては、臓器を取り出すために最低でも長さ2cm程度の創が必要となります。一方、2cmの大きさの創があれば、そこからカメラ1本と鉗子2本を挿入することができますので、別に創を設ける必要はなく、1か所の創のみ(「単孔式」手術と言います)で手術を行うことが可能です。こうすることで臓器を摘出する創以外に器具を挿入するための創を別に何か所か設ける従来型の腹腔鏡下手術よりも単孔式手術の場合は創の負担を減らすことができるわけです。ただし、2cmの創となると1か所であっても痛みはどうしてもあります。
一方、鼠径ヘルニア手術においては臓器を摘出する必要がなく、メッシュは5mmの大きさの創があればお腹の中に挿入できますので、創を小さくすることが可能です。1cm以上の大きさの創は痛みがありますが、5mm以下の創はほぼ痛みを感じませんので、5mm以下の創3か所で手術を行うことで、創を一つにまとめた単孔式手術よりも創の負担や痛みを小さくすることができるわけです。
当院では5mm×2か所・3mm×1か所(きずの長さを全て足しても13mm)という極小切開で手術を行っており、きずの痛みがほぼ無く、きずあともほとんどわからない状態となりますので、創の負担や痛み、創跡を少しでも減らしたい方にも安心して手術を受けていただけます。

腹腔鏡下手術の安全性について
腹腔鏡下手術は鼠径部切開法に比べて傷が小さいなどメリットのある方法であり、多くの施設で行われている手術方法ですが、技術的には難しい手術であるため、手術の質は病院ごとに様々です。
腹腔鏡手術の技能、指導力を保証する資格として日本内視鏡外科学会技術認定医制度がありますが、当院には腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術の技術認定医が所属しておりますので、安心して腹腔鏡手術を受けていただけます。
腹腔鏡下手術はお腹の中からアプローチして手術を行うため、以下の条件をお持ちの患者様においては手術の安全性の確保が難しくなることがあります。この場合、腹腔鏡の手術は行わず、鼠経部切開法で手術を行います。
以前は血液をサラサラにする薬を飲んでおられる方は、術中に出血しやすく、止血しにくいため、手術が危険で行えないと言われていました。手術の安全性が高まってきたことで最近ではバイアスピリンと呼ばれる薬のみであれば継続したままで安全にあらゆる手術が行えるようになっており、むしろ継続したままでの手術が推奨されています。ただし、バイアスピリン以外の血のサラサラ薬を内服しておられたり、複数の血のサラサラ薬を併用しておられたりする患者様で、かつ手術前にそれらのお薬を休薬することができない場合は、お腹の中を触る腹腔鏡下手術は術中、術後の出血のリスクが高まるため、適応外としています。なお、鼠経部切開法のうちLichtenstein法については複数の血のサラサラ薬を内服しておられる方でも安全に手術が可能ですので、手術に際しての休薬は不要です。
ダビンチを用いたロボット支援下鼠径ヘルニア手術は、2026年6月から保険診療で受けられるようになった術式で、手術支援ロボットを用いて腹腔鏡下手術(TAPP法)をより精密に行う方法です。手ぶれ補正や最大約10倍の3次元拡大視野により、正確で繊細な手術が可能です。当院ではダビンチXiを用いて行っています。
手術支援ロボットを用いてTAPP法(腹腔鏡下手術(TAPP法)を参照)をより精密に行う方法です。「ロボット」と聞かれると自動的に動くようなロボットをイメージされると思いますが、手術支援ロボットはあくまでも術者が操作することでしか動かないロボットです。ロボットを介して術者が鉗子(マジックハンド)を操作することで、人の手で直接鉗子を操作するときに比べて、手ぶれが補正されたり、術者が手を5cm動かしても体内の鉗子は1cmしか動かないというように、鉗子を細かく動かすことが容易にできたりする他、カメラによる映像も最大で肉眼の10倍程度まで拡大された3次元映像を見ながら手術を行うことができますので、より正確、丁寧、細やかな手術が可能となります。
なお、ロボット支援下手術も腹腔鏡下手術と同様に全身麻酔が必須となります。
当院ではダビンチ Xiとセンハンスの2種類の手術支援ロボットを保有しており、それぞれの特性を生かしたロボット支援下手術を行っています。以下それぞれの特徴についてご説明いたします。
手術支援ロボットの代名詞ともいえる世界で最も普及しているロボットです。日本においても最も普及しており、胃がんや大腸がんの手術においては標準的に使用されるようになっています。当科でも胃がんや大腸がんの手術の大半をダビンチで行っており、これまでにたくさんの手術を行ってきました。通常の腹腔鏡下手術よりも精細で質の高い手術が行え、結果として出血量や合併症の減少につながっていると実感しています。
ダビンチにおいては、ロボットのアームの先端はマジックハンドというよりも人間の手そのもののように自由に動き、カメラの性能も非常に良いですので、術者としてはまるで小人になって人間の体の中に入って、手で直接手術をしているような感覚になれるくらい、自由で精緻な手術が可能です。
鼠径ヘルニア手術においても、通常の腹腔鏡下手術では難しいと言われていたタイプの鼠径ヘルニアの患者様においてダビンチの有用性が証明されつつあります。
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ダビンチによる鼠径ヘルニア手術は日本ではこれまで保険診療で行うことができず、ごく一部の施設でのみ自由診療で行われてきましたが、2026年6月から保険診療で行うことができるようになりました。新しい治療方法ではありますが、米国ではすでに何年も前から一般的に行われており、その安全性、有用性が報告されています。このような背景があり日本でも保険診療で行えるように厚生労働省が認めたわけですから、十分に安全性、有用性は担保されている手術方法と言えます。
通常の腹腔鏡手術に比べてのデメリットとしては、一つ一つの傷が8mmの大きさとなりますので、当科で行っている5mm×2か所、3mm×1か所の低侵襲腹腔鏡手術に比べると傷の数は同じですが、それぞれの傷が少し大きくなります。とはいえ、1cmに満たない創で手術は行えますので、傷の負担や痛みが小さいことに変わりはありません。傷を少しでも小さくして手術を受けたい患者様には腹腔鏡下手術か次のセンハンスによるロボット支援下手術がおすすめです。
患者様の費用負担は通常の腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術と同額です。手術コストが高めであることや、ダビンチの空きがないと使用できないことから、すべての患者様に行えるというわけにはいきませんが、新しい鼠径ヘルニア手術を受けたい患者様には特にお勧めです。
ダビンチの次に発売された手術支援ロボットです。ダビンチとはコンセプトを異にした手術支援ロボットで、腹腔鏡下手術の際に使用する鉗子(マジックハンド)をロボットを介して操作することで、通常の腹腔鏡下手術にロボットによる安全性と精緻性を付加するというコンセプトのロボットです。ダビンチに比べると自由度は劣りますが、手術支援ロボットの恩恵にあずかることができます。2026年6月までは国内で使用できる手術支援ロボットの中で唯一保険診療で鼠径ヘルニア手術が行える貴重な手術支援ロボットでした。日本で保有している病院が極めて少なく(2026年4月現在国内で8施設のみ)、当院はこれまで保険診療でロボット支援下鼠径ヘルニア手術が施行できる希少な施設でした。
一番の特徴として通常の腹腔鏡下手術の際の鉗子と同じ形状の鉗子が使用できるため、5mm×2か所、3mm×1か所の傷で手術を行うことが可能です。腹腔鏡手術の際と同じ少ない傷の負担でロボット支援下手術を受けたい患者様にお勧めです。

ロボット支援手術の安全性について
手術支援ロボットは使用方法によっては患者様にとって危険なものとなりえます。医師のみならず看護師や臨床工学士といった様々な職種による専門チームによって運用されるものでありますが、これまで当院では専門チームによりダビンチ、センハンスといった手術支援ロボットを使用して多くの手術を安全に行ってきた実績があります。
加えて、ロボット支援下手術の指導医資格であるプロクターの資格を持った外科医が当科には3人おり、そのうち一人については京滋でただ一人(2026年6月現在※)であるロボット支援下鼠径ヘルニア手術のプロクター資格を持っておりますので、安心して手術を受けていただけます。
※日本内視鏡外科学会ロボット支援手術認定プロクター(消化器・一般外科)(2026年6月)
腹腔鏡下手術とロボット支援下手術は全身麻酔が必須です。鼠径部切開法は腰椎麻酔(下半身麻酔)や局所麻酔でも手術が可能で、当院では全身麻酔のリスクが高い方やご高齢の方に局所麻酔下手術を積極的に行っています。麻酔法は術式・ヘルニアの大きさ・全身状態を総合的に評価して決定します。
麻酔方法の選択については、手術の種類だけでなく、ヘルニアの大きさ・患者様の基礎疾患・全身状態を総合的に評価したうえで行います。
腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術においては全身麻酔が必須となります。鼠径部切開法においても、大きく脱出していたり、常時引っ込まない状態(慢性非還納状態)や嵌頓状態に陥っている場合には全身麻酔が必要となることがあります。
完全に寝た状態で手術を受けることができますので、最も楽に手術が受けられる麻酔方法と言えます。ただし、全身へ影響が及ぶ麻酔方法であり、心臓や肺の状態が十分でない患者様にとっては危険となり得ます。あらかじめ術前に心臓や肺の機能を調べる検査を行い、安全に全身麻酔が行えると判断できた患者様に全身麻酔を受けていただきますので、ご安心ください。全身麻酔のリスクが高いと判断した患者様には全身麻酔は行わず、腰椎麻酔や局所麻酔の下、安全に手術を行います。
鼠径部切開法においては最も一般的に行われてきた麻酔方法です。
手術室のベッドに横向きに寝てもらった状態で腰から麻酔薬を注射し、下半身(実際には臍のあたりから下)の感覚を麻痺させる方法です。全身麻酔に比べると全身への影響が少なく、幅広い患者様に安全に使用できる麻酔方法です。ただし、血液をサラサラにするお薬を服用しておられる場合は、個々の状況により適応を慎重に判断する必要があり、施行できない場合もあります。
ご高齢の方や全身麻酔や腰椎麻酔のリスクのある患者様。また手術リスクにかかわらず、そこまで大きくない鼠径部切開法においては積極的に施行しています。
全身への影響を限りなく少なく抑えることができる麻酔法です。ご高齢であったり様々な病気をお持ちで手術のリスクの高い患者様でも安全に行うことができます。局所麻酔のみでは目が覚めた状態で手術を受けることになり、術中の様々な音が聞こえてきたり、不安になったりすることもあるため、術中の精神的苦痛を緩和する目的で、胃カメラや大腸カメラの時にも使用されるような「鎮静剤」と呼ばれる眠たくなるお薬を使用し、眠った状態で手術を受けていただきますので、安心かつ快適に手術を受けていただくことが可能です。
局所麻酔での手術においては、腰椎麻酔や全身麻酔での手術に比べると手術の質が十分ではないことが一般的で、同じ質で施行するためには高度な知識、技術、熟練が必要となります。当院では手術リスクの高い患者様が多い背景から、局所麻酔での手術を積極的に施行しており、腰椎麻酔や全身麻酔での手術と遜色ない手術が可能となっておりますので、安心、安全、快適に手術を受けていただけます。
鼠径ヘルニア手術は比較的安全な手術で、国内の報告では合併症の発生率は約1.6%とされています。主な合併症は出血・漿液腫・感染・腸管損傷・再発などです。近年最も重視されているのが術後慢性疼痛(CPIP)で、当院では神経解剖を意識した丁寧な手術により予防に努めています。
鼠径ヘルニア手術は比較的安全な手術ですが、すべての手術にはリスクが伴います。本邦においての報告では合併症の発生率は約1.6%とされています。(※)ここでは主な合併症について説明します。
(※)日本内視鏡外科学会内視鏡外科手術に関するアンケート調査-第15回集計結果報告-
通常鼠径ヘルニアの手術における出血量は血液検査1回にも満たないようなごく少量です。ただし、鼠径部には重要な血管もあり術中の出血が多くなる可能性も0ではありません。また、止血を全て確認して手術を終了した場合でも、術後に中の傷から再度出血してくることがあります。これを術後出血と言い、血腫と呼ばれる血液の溜まりを作ることがあります。場合によっては輸血を要するほどの出血となることもあります。傷の圧迫や、止血剤の点滴などで止血が得られない場合は、止血のための再手術を行うことがあります。
もともと脱腸していたスペースや手術で触った部位に、術後傷からしみ出てきた液体(滲出液といいます)が貯留することがあり、これを漿液腫と言います。通常でも大なり小なり生じるもので、特に手術前大きく脱腸していた方には大きな漿液腫ができやすいです。元々膨らんでいた場所が術後また腫れますので心配される患者様も多いですが、多くの場合は時間とともに自然と腫れが引きますので心配ありません。腫れが引くまで数か月と長くかかる場合で、ご不快な場合は退院後の通院の中で、局所麻酔下に針で刺して液体を抜く処置を何度か行うこともあります。また、程度がひどい場合には漿液腫を治すための手術を行うこともあります。
通常の鼠径ヘルニア手術は無菌状態で行われる手術であり、感染が起こることは極めてまれです。ただ、一度人工物であるメッシュに菌が付着すると抗生物質のみでの治療は困難となります。メッシュの周りに溜まった膿を排出するために、切開排膿処置を行うことが基本ですが、それでも感染の制御がつかない場合は、メッシュを取り除くための手術が必要となることがあります。
鼠径部切開法においては脱出した腸管を損傷するリスクがあります。一方腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術はお腹の中で手術を行うため、お腹の中に存在する腸管を傷つけるリスクがあります。いずれの場合も腸に孔があいた場合は腸の内容物である便や腸内細菌が流出しますので、メッシュは使用できなくなります。また腸の孔は術中に見つかれば縫合して修復しますが、術中操作で壁が薄くなっていた腸に術後孔があくこともあります。この場合は緊急での再手術が必要となります。
また特殊な状況として、留置したメッシュに術後腸が張り付いてしまう癒着が起こることにより、メッシュの物理的刺激で後々になって張り付いた腸に孔が起こることもあります。この場合はメッシュを除去する再手術が必要となります。
腹膜と筋膜の間にメッシュを入れた場合、術後メッシュ周囲で起こる炎症の影響で腹膜越しにメッシュに腸がくっつく(癒着)することがあります。また腹腔鏡下手術(TAPP法)の場合は一度腹膜を開放して、腹膜と筋肉との間にメッシュを留置した後、再度腹膜を縫合閉鎖するのですが、閉鎖した腹膜が術後再度開くことで、メッシュと腸が直接触れることになり、結果的にメッシュと腸が癒着することもあります。癒着が軽度であれば問題ありませんが、癒着したことにより腸の動きに制限が加わった場合に、腸の中を便が通らなくなる腸閉塞が起こることがあります。この場合は、絶食治療や、場合によっては手術が必要となることもあります。
脱出している現場である鼠径管の中には精巣の動脈、静脈や、精巣で作られた精子を運ぶための精管と呼ばれる管が存在します。鼠径ヘルニア手術においては精巣動静脈や精管の周囲を触るため、これらを損傷する可能性があります。精巣動脈や静脈が切断すると精巣の痛みや腫れ、壊死が起こり、精巣を摘出する手術が必要となることもあります。精管を損傷した場合、損傷した側の精巣で作られた精子が流れて行かないことになります。
術後再度脱腸してくることを再発と言います。メッシュ法により再発率は大幅に低下していますが、ゼロではありません。文献では鼠径部切開法、腹腔鏡下手術ともに1%程度と報告されていることが多いです。万一再発が起きた場合には、再度手術が必要となります。一般的に鼠径部切開法の手術の後の再発では腹腔鏡下手術、腹腔鏡下手術の後の再発では鼠径部切開法で手術を行うことが多いです。
なお、再発とは別の話になりますが、手術をした側と逆側の鼠径ヘルニアが術後に起こることがあります。この場合は逆側についても改めて手術をお勧めすることになります。
術後慢性疼痛(chronic postoperative inguinal pain:CPIP)は、鼠径ヘルニア診療において最も重要な合併症として近年注目されています。通常鼠径ヘルニア手術の後の痛みは1週間以内には軽減しますが、手術後3か月以上持続する鼠径部の痛みや違和感が持続する場合術後慢性疼痛と呼びます。報告によって頻度に差はあるものの、軽度のものを含めると10〜12%程度に生じるとも言われています(※)。日常生活や労働に支障をきたすほどの重篤なものは数%とされますが、患者様のQOL(生活の質)に直接影響するため、専門家の中でも予防が重要課題となっています。術後慢性疼痛が生じた場合は長期間鎮痛薬の使用が必要になったり、効果に乏しい場合は神経ブロックと呼ばれる注射を週に1回行ったりといったことが必要になりますが、それでも全くよくならない場合は、原因となっている神経や、初回手術で留置したメッシュそのものを切除する手術が必要となることもあります。大事なことは術者がしっかりと原因を理解した上で、それを回避するための工夫を十分に行い、予防することにあります。
(※)HerniaSurge International Guidelines(2018)
鼠径部には神経が多く走っており、これらを術中に損傷したり、術後にメッシュが神経を巻き込む形で癒着したりした時に生じます。予防のためには、神経を丁寧に同定・温存し、メッシュが直接神経に触れないように留置するといった工夫や、場合によってはメッシュに接触する部位に存在する神経をあらかじめ支障のない範囲で切除することもあります。いずれにせよ高度な解剖学的知識、周囲の組織に負担をかけない丁寧で繊細な手術手技が必須となります。当院では鼠径ヘルニアの専門家が神経解剖を意識した丁寧な手術を心がけ、慢性疼痛を起こさないための工夫を重ね、予防に努めています。
以下は直近5年間(2021〜2025年度)の手術実績です。
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5年間の総件数 |
低侵襲手術の割合 |
ロボット支援下手術 |
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鼠径部切開法(開放) 222件・約31% |
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腹腔鏡下手術(TAPP) 481件・約67% |
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ロボット支援下手術 18件・約2% |
当院では、鼠径部切開法・腹腔鏡下手術(TAPP)・ロボット支援下手術という3つの術式すべてに対応しており、直近5年間でそれぞれ約220件・約480件・18件を施行してまいりました。患者様お一人おひとりの状態・背景・ご希望を総合的に評価したうえで、最適な術式を選択できる体制を整えています。
また、局所麻酔に習熟した外科医が赴任した直近2年間は、鼠径部切開法の約4割(2年間で43件)を局所麻酔下で施行しています。全身麻酔のリスクが高い患者様・ご高齢の患者様への安全な手術提供において豊富な経験を有しています。
ロボット支援下手術については、これまでセンハンスを用いて直近2年間で18件の実績を積んでまいりました。この経験を基盤として、2026年6月からはダビンチXiによるロボット支援下鼠径ヘルニア手術を開始しております。
鼠径ヘルニア手術の一般的な入院期間は2〜4日間です。時系列で流れをまとめます。

経過には個人差があります。詳細は担当医までお気軽にお尋ね下さい。
手術で留置したメッシュは約2週間かけて周囲の組織や筋肉と自然治癒力で接着し100%の強度を発揮するようになります。それまでは溶けて無くなる人体に無害なプラスチック製のビスや糸でメッシュを仮固定しますが、それだけでは強度は不十分です。
強度が不十分な時期に鼠径部に大きな負担がかかると、メッシュがずれたりめくれたりすることでヘルニアが再発することがあります。また手術で触った部分からの再出血などのトラブルを避けるためにも、退院後は段階的に活動範囲を広げていただきます。
下記の図に沿って、徐々に元の生活に戻していきましょう。

創部の治癒過程には個人差があります。ご不明な点は担当医までお気軽にお尋ね下さい。
| 活動内容 | 再開時期 |
| シャワー浴 | 手術翌日から可能 |
| 日常生活・デスクワーク | 退院後すぐ可能 |
| 湯船での入浴 | 手術1週間後から |
| ゴルフ・水泳・体操 | 手術2週間後から |
| 5kg以上の重量物の運搬 | 手術2週間後から |
| 農作業・通常の重労働 | 手術2週間後から |
| 本格的なスポーツ | 手術1か月後から |
| 30kg以上の重量物の運搬 | 手術1か月後から |
※本資料は鼠径ヘルニア手術の一般的な経過をお示ししたものです。患者様の状態や術式により、内容が一部変わることがあります。詳細は担当医までお気軽にお尋ねください。
当院は、局所麻酔下手術・低侵襲腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術の3本柱に対応し、患者さんの状態・背景・ご希望に合わせたテーラーメード治療を行っています。鼠径ヘルニア・腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術の3分野の専門資格を持つ外科医が担当します。
局所麻酔下手術・低侵襲腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術を3本柱に、患者様一人ひとりの状態、背景、ご希望に最適なテーラーメード治療を確かな知識、技術、総合病院の安心感の下、提供いたします。
担当、指導外科医は、鼠経ヘルニアについての知識、経験を証明する「日本ヘルニア学会 鼠径部ヘルニア修得医」の資格に加え、腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術の技能、指導力を証明する「日本内視鏡外科学会技術認定医」の資格、さらにはロボット支援下鼠径ヘルニア手術の指導医資格である「プロクター」の資格を取得しております。鼠径ヘルニアの専門知識・腹腔鏡下手術の高度技能・ロボット手術の十分な経験に基づく指導力を三位一体で持つ外科医として、安全で質の高い鼠径ヘルニア治療を提供します。
当院の腹腔鏡手術(TAPP法)は5mmの創2か所・3mmの創1か所(創の総長13mm)という非常に小さな創で行います。創の痛みや負担は創の数よりも創の大きさに影響を受けます。腹腔鏡下手術においては器具の挿入口が3か所必要ですが、それらを1か所にまとめるには2cm程度の創の大きさが必要となります。臓器や腫瘍を体の外に摘出する必要のない手術においては創を限りなく小さくすることが可能であるため、創を分散させることで一か所あたりの創の大きさを最小化し、負担が少なく創の痛みの少ない手術が行えます。整容面にも優れ、術後の早期回復を促します。
局所麻酔下での鼠径ヘルニア手術は、全身や心肺への影響を最小限に抑えられるため、重篤な基礎疾患をお持ちで全身麻酔のリスクが高い患者様、ご高齢の患者様にとって非常に大きなメリットがあります。
一方、局所麻酔下での鼠径ヘルニア手術においては、繊細かつ正確な局所麻酔と術中操作が必要となります。全身麻酔や腰椎麻酔による手術と遜色のない安全で質の高い手術を行うには高度な知識と技術、経験が必要となります。
当院は地域中核病院としてリスクの高い患者様を多く受け入れてきた経緯から、局所麻酔下鼠径部切開法の経験を豊富に積んでいます。局所麻酔・腰椎麻酔・全身麻酔のいずれでも同等のクオリティで手術を提供できる体制が整っており、患者様の状態に最適な麻酔法を安心して選択していただけます。
なお、局所麻酔での手術においては、鎮静剤を使用することで眠った状態で手術を受けていただけますので、「局所麻酔と聞いて不安」という方もどうぞご安心ください。
当院では手術支援ロボット「ダビンチ Xi」を用いた鼠径ヘルニア手術を開始しました。ダビンチは世界で最も普及した手術支援ロボットであり、鼠径ヘルニアの分野でも有用性に関するエビデンスが蓄積されてきました。より精密で安全、そして新しい術式であるロボット支援下鼠径ヘルニア手術を希望される患者様はお気軽にご相談ください。
当院では京滋で唯一人(2026年6月現在※)のロボット支援下鼠径ヘルニア手術の指導医資格である「プロクター」の資格を取得した外科医が手術を担当、指導いたしますので安心してロボット支援下手術を受けていただけます。
※日本内視鏡外科学会ロボット支援手術認定プロクター(消化器・一般外科)(2026年6月)
鼠径ヘルニア手術は、元来一般外科でも広く行われている手術であり、病院のみならずクリニックでも行われています。しかし鼠径ヘルニア手術は決して簡単なものではなく、また患者様ごとに様々な背景を持っておられる中で、油断せず万全の態勢で手術に臨むべきものです。当院では以下の観点から、より安全・安心な医療が提供できると考えています。
高血圧・糖尿病・心疾患・腎疾患などの持病をお持ちの患者様でも、院内の各診療科と密に連携しながら管理できます。当院には複雑な背景をお持ちの患者様の手術を安全に行える体制が整っています。
当院では日帰りではなく入院で手術を行います。術後の状態を医療スタッフが継続的に観察することで、術後出血や循環器系の変化など何らかの異変が生じた場合でも、速やかに対応できる体制を整えております。
当院では鼠径部切開法(局所麻酔での手術含む)・低侵襲腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術と多様なアプローチで手術を行っております。患者様の年齢・基礎疾患・ヘルニアの状態は個々様々であり、それらを総合的に評価したうえで、患者様ごとに最も適した手術法・麻酔法を選択するテーラーメード治療が可能です。
当院は鼠径ヘルニアのみならず、消化器がん手術・高難度腹腔鏡手術を日常的に行っています。これらを通じて積み重ねた解剖学的知識・術中判断力・合併症対応力が、すべての手術の質を支えています。総合病院のみでこそ叶う幅広い技術基盤のうえで、安心、安全な鼠径ヘルニア手術を提供しています。
手術でしか治せない病気にも関わらず、様々な事情により手術に不安を感じたり、ためらわれたり、手術が受けられないと思っておられる方がたくさんいらっしゃいます。
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様々なご不安やご体調、ご事情、ご要望に対応できるよう、当院では個々の患者様ごとに最適、最良な手術治療法をご提案し、地域中核総合病院としての総合力と確かな知識、技術、経験の下、全力で安全・安心な鼠径ヘルニア治療を提供しております。
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ぜひ、かかりつけの先生を介して、あるいは直接でも結構ですので遠慮なくご相談にいらしてください。不安が払拭できるよう丁寧に説明させていただき、皆様それぞれにとって最良の治療を受けていただきます。
鼠径ヘルニアの手術について、患者様から多く寄せられるご質問をまとめました。
Q. 鼠径ヘルニアは自然に治りますか?
A. 自然には治りません。お腹の壁の隙間から臓器が脱出する物理的な仕組みの病気のため、薬で治ることもなく、根本的な治療は手術のみです。診断された時点で原則として手術の適応があります。
Q. 放置するとどうなりますか?
A. 放置すると徐々に進行し、膨らみが大きくなって戻りにくくなります。最も危険なのは脱出した腸が締め付けられる「嵌頓(かんとん)」で、腸閉塞や腸の壊死を起こし命に関わることもあります。緊急手術や腸の切除が必要になる前の、症状が軽い段階での手術が重要です。
Q. どんな症状が出ますか?
A. 主な症状は、下腹部から足の付け根の膨らみと違和感です。初期は立っているときや夕方に膨らみ、横になると自然に戻るのが典型的です。進行すると押しても戻らなくなり、痛みや便通異常を伴うこともあります。
Q. 手術は必ず必要ですか?
A. 診断された時点で、原則として手術の適応があります。ただし、膨らみが小さく痛みなどの症状を伴わない場合は、経過観察を選択することもあります。経過中に増大や症状の出現があれば手術をお勧めします。
Q. どんな手術方法がありますか?
A. 大きく、鼠径部切開法・腹腔鏡下手術(TAPP法)・ロボット支援下手術の3つがあります。当院ではすべてに対応しており、患者さんの状態・背景・ご希望を総合的に評価して最適な術式を選びます。現在はメッシュ(人工補強材)を用いるメッシュ法が標準です。
Q. ロボット手術とはどんな手術ですか?
A. 手術支援ロボットを使って、腹腔鏡下手術(TAPP法)をより精密に行う方法です。ロボットは術者が操作して初めて動くもので、手ぶれ補正や最大約10倍の3次元拡大視野により、正確で繊細な手術が可能です。2026年6月から保険診療で受けられます。当院ではダビンチXiを用いています。
Q. 傷あとは目立ちますか?
A. 当院の腹腔鏡下手術は5mm2か所・3mm1か所(合計13mm)の極小切開で行うため、傷の痛みや傷あとはほとんど目立ちません。ロボット支援下手術では傷が1か所あたり8mmとなりますが、いずれも1cmに満たない小さな創です。
Q. 左右両方にある場合、一度に手術できますか?
A. 腹腔鏡下手術(TAPP法)では、同じ傷から左右両方の鼠径部にアプローチできるため、両側のヘルニアを一度の手術で同時に修復できます。両側を観察できることも利点です。
Q. 手術費用はどのくらいですか?保険は使えますか?
A. 鼠径部切開法・腹腔鏡下手術(TAPP法)・ロボット支援下手術のいずれも保険診療で受けられます。自己負担額は、加入されている公的医療保険の負担割合(1〜3割)に応じて決まります。また、ひと月の自己負担額が一定の上限を超えた場合は高額療養費制度により超過分が払い戻されるため、実際のご負担はさらに軽減されることがあります。詳しい費用は診療支援課までお問い合わせください。
Q. 全身麻酔が怖いのですが、ほかの方法はありますか?
A. 鼠径部切開法であれば、腰椎麻酔(下半身麻酔)や局所麻酔でも手術が可能です。当院は全身麻酔のリスクが高い方やご高齢の方に局所麻酔下手術を積極的に行っています。局所麻酔でも鎮静剤を併用し、眠った状態で手術を受けていただけます。
Q. 高齢や持病があっても手術を受けられますか?
A. 受けられる場合が多くあります。当院は総合病院として院内の各診療科と連携しながら、高血圧・糖尿病・心疾患などの持病をお持ちの方の手術にも対応しています。全身麻酔が難しい方には局所麻酔下手術を行うなど、リスクの高い方にも安全に配慮した手術を提供しています。
Q. 血液をサラサラにする薬を飲んでいますが手術できますか?
A. お薬の種類によります。バイアスピリンのみであれば、継続したまま安全に手術が可能です。複数の抗血栓薬を併用していて休薬できない場合でも、鼠径部切開法のLichtenstein(リヒテンシュタイン)法であれば休薬不要で手術が行えます。詳細は服用中のお薬を担当医にご相談ください。
Q. 手術の合併症やリスクにはどんなものがありますか?
A. 鼠径ヘルニア手術は比較的安全な手術で、国内の報告では合併症の発生率は約1.6%とされています(日本内視鏡外科学会 内視鏡外科手術に関するアンケート調査 第15回集計結果報告による)。主なものは出血・漿液腫・感染・腸管損傷・再発などです。近年は術後慢性疼痛(CPIP)が重視されており、当院では慢性疼痛を起こさないための工夫に力を注ぎ予防に努めています。
Q. 再発することはありますか?
A. メッシュ法により再発率は大幅に低下していますが、ゼロではありません。文献では鼠径部切開法・腹腔鏡下手術ともに1%程度と報告されています。万一再発した場合は、再度手術を行うことが可能です。
Q. 入院期間はどのくらいですか?
A. 一般的な入院期間は2〜4日間です。手術翌日または翌々日の退院が目安です。血液をサラサラにするお薬を休薬せずに手術を受けられた場合は、安全のため術翌々日の退院を推奨しています。
Q. 仕事や運動はいつから再開できますか?
A. 目安として、デスクワークは退院後すぐ、湯船での入浴は術後1週間、ゴルフ・水泳や軽い運動は術後2週間、本格的なスポーツや30kg以上の重量物の運搬は術後1か月から再開できます。留置したメッシュが定着するまで、段階的に活動範囲を広げていただきます。
Q. 仕事が忙しく入院が難しいのですが?
A. 1泊2日の短期入院手術や、金曜日入院・土日退院が可能な週末入院手術にも対応しています。短期間で受けられる手術と、入院による術後管理の安心感を両立できます。
Q. なぜクリニックではなく総合病院で受けるとよいのですか?
A. 持病があっても院内の各診療科と連携して全身管理ができ、入院により術後の状態を医療スタッフが継続的に観察することで、術後出血や循環器系の変化など何らかの異変が生じた場合でも、速やかに対応できるためです。
Q. 担当する医師はどのような専門資格を持っていますか?
A. 日本ヘルニア学会の「鼠径部ヘルニア修得医」、腹腔鏡手術の技能を証明する「日本内視鏡外科学会技術認定医」、ロボット支援下鼠径ヘルニア手術の指導医資格である「プロクター」を持つ外科医が手術を担当・指導します。
※上記は一般的なご説明です。症状や術式により内容が異なる場合があります。ご不明な点は担当医までお気軽にお尋ねください。
監修

済生会滋賀県病院 外科部長
日本ヘルニア学会 鼠径部ヘルニア修得医・評議員
日本内視鏡外科学会 技術認定医(ヘルニア)
日本内視鏡外科学会 ロボット支援手術プロクター(大腸・ヘルニア)
小林 博喜(こばやし ひろき)
改訂日:2026年7月1日