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 Q  子宮筋腫とはどのような病気ですか?
 Q  子宮筋腫による症状にはどのようなものがありますか?
 Q  子宮筋腫はどのような方法で診断されるのですか?
 Q  どのような場合、治療が必要となるのですか?
 Q  子宮筋腫にはどのような治療法がありますか?
 Q  動脈塞栓術とはどのような治療法ですか?
 Q  動脈塞栓術の治療効果はどうですか?
 Q  動脈塞栓術後、子宮筋腫はどのようになっていきますか?
 Q  動脈塞栓術後、正常な子宮組織はどうなりますか?
 Q  動脈塞栓術の適応はどうですか?
 Q  どのくらいの大きさの子宮筋腫ならば、治療効果が期待できますか?
 Q  子宮筋腫によっておへそを越えたような巨大な子宮の場合、動脈塞栓術は適応外ですか?
 Q  動脈塞栓術の優れた点はどこですか?
 Q  動脈塞栓術が奏効しないのはどういう場合ですか?
 Q  動脈塞栓術の合併症はどうですか?
 Q  動脈塞栓術後の痛みはどのようですか?
 Q  動脈塞栓術の短所はどうですか?
 Q  検査と治療に使用するX線の影響はどうですか?
 Q  動脈塞栓術後に癒着は生じますか?
 Q  動脈塞栓術は何科の医師が行うのですか?
 Q  動脈塞栓術後、仕事や運動はいつ頃からできますか?
 Q  動脈塞栓術後、妊娠・分娩能は保たれますか?
 Q  妊娠・出産を希望しますが、動脈塞栓術の適応はありますか?
 Q  現在妊娠していますが、動脈塞栓術は受けられますか?
 Q  閉経後ですが、動脈塞栓術の適応はありますか?
 Q  動脈塞栓術の術前には、MRI検査は必要ですか?
 Q  重度の貧血がありますが、動脈塞栓術の術前や術中に輸血をすることはありますか?
 Q  動脈塞栓術の術前や術後には、ホルモン療法を併用しますか?
 Q  リュープリンによるホルモン療法を受けていますが、動脈塞栓術は受けられますか?
 Q  核出術後、子宮筋腫が再発していますが、動脈塞栓術は可能ですか?
 Q  どういう場合、動脈塞栓術の適応から外れますか?
 Q  生理中ですが、動脈塞栓術は受けられますか?
 Q  多発性の子宮筋腫ですが、動脈塞栓術の治療効果はどうですか?
 Q  子宮筋腫の動脈塞栓術は健康保険が通りますか?
 Q  動脈塞栓術後、子宮筋腫は再発しますか?
 Q  動脈塞栓術後、治療した筋腫が体内に残って問題はありますか?
 Q  動脈塞栓術後、生理はどうなりますか?
 Q  血管を詰める物質(塞栓物質)は何を使用しますか?
 Q  子宮腺筋症と診断を受けていますが、動脈塞栓術の適応はありますか?
 Q  動脈塞栓術を行っている近くの病院はありますか?
 Q  動脈塞栓術後、子宮筋腫が再発して症状が再燃していますが、動脈塞栓術を再度行うことは出来ますか?

 

 

 Q 

子宮筋腫とはどんな病気ですか?

 A 

子宮筋腫は、成人女性の4人に1人が有している良性腫瘍です。通常30~40歳代に発見されます。その後大きさが変化しない場合もありますが、増大していく場合もあります。閉経後は(エストロゲンというホルモンが減少していくため)自然と縮小していきます。
子宮筋腫を持っている方のうち、大半の方(80~90%)は、これによる症状や問題が出現せず、治療を要しません。一方、日常生活に支障が生じてなんらかの治療が必要となるのは、ごく少数(10~20%)の方です。

 

 

 Q 

子宮筋腫による症状にはどのようなものがありますか?

 A 

大半の方は子宮筋腫による症状はありません。一部の方で子宮筋腫の部位・大きさ・数によって以下のような症状が生じえます。

 症状備考
1 過多月経  
2 過長月経 1、2、3は貧血の原因になりえます。
3 不正出血  
4 骨盤部痛  
5 月経時痛  
6 腰痛・下肢の疼痛 子宮筋腫が骨盤や下肢へ分布する神経を圧排している場合に生じえます。
7 腹痛 子宮筋腫の一部に血が巡らなくなり、部分的に梗塞・変性を起こした場合に生じえます。また漿膜下筋腫が捻転を起こした場合にも生じます。
8 性交痛  
9 腹部膨隆  
10 頻尿・排尿障害 膀胱が圧排されている際に生じえます。
11 便秘 直腸や大腸が圧排されている際に生じえます。
12 不妊・流産・分娩障害  

これらの症状は子宮筋腫以外の他の骨盤内疾患でも生じえます。このため、これらが子宮筋腫によるものなのか否かは、担当医によって正確に診断される必要があります。
症状が子宮筋腫由来でないならば、子宮筋腫に対してどのような治療を行っても症状の改善は期待できません。

 

 

 Q 

子宮筋腫はどのような方法で診断されるのですか?

 A 

子宮筋腫の診断には一般に以下のような方法が用いられ、担当医によって総合的に診断されます。

  1. 問診
  2. 内診
  3. 超音波検査
  4. MRI
  5. 子宮鏡検査

 

 

 Q 

どのような場合、治療が必要となるのですか?

 A 

一般に次の場合、治療が行われます。

  1. 子宮筋腫による症状(過多月経、疼痛、圧迫症状など)がある場合
  2. 子宮筋腫が不妊・流産・分娩障害の原因となっている場合
  3. 子宮筋腫よりも悪性腫瘍が疑われる場合(これは極めて稀なことです)

いずれも生活の質(Quality of Life:QOL)を改善させるのが、子宮筋腫の治療の目的です。

 

 

 Q 

子宮筋腫にはどのような治療法がありますか?

 A 

以下のいくつかの有効な治療法がありますので、患者さんは担当医とよく話し合われてご自分にあった治療法を選択できます。

  1. 対症療法(鎮痛剤、止血剤、鉄剤、漢方など)
  2. 外科的手術(子宮全摘術、核出術など)
  3. ホルモン療法(偽妊娠療法、偽閉経療法)
  4. 動脈塞栓術
  5. 集束超音波治療

当科では、日常生活に支障をきたすような重い症状があって対症療法ではコントロールできない場合、手術やホルモン剤を用いることなく、動脈塞栓術という治療を行っております。

 

 

 Q 

動脈塞栓術とはどのような治療法ですか?

 A 

動脈塞栓術は、局所麻酔で皮膚に入れた小さな切開から、細い管(カテーテル)を目的とする動脈内に挿入して、それを利用して行う治療です。
既に20年以上の歴史があり、現代医学では低侵襲・安全・有効な治療法として、全身の様々な疾患に対して行われています。

 

> 動脈塞栓術一般について詳しくはここをクリック

 

子宮筋腫に対しては、1990年頃よりフランスで始められ、アメリカ、イギリスを中心に普及し、現在までカナダ、スウェーデン、オーストラリア、イタリア、オランダ、ベルギー、ハンガリー、ドイツ、スコットランド、スペイン、ポーランド、チェコ、クェート、エジプト、韓国、中国、台湾、トルコ、パキスタン、オーストラリア、南アフリカ、ブラジル、アルゼンチンなどでも行われています。

 

2008年3月現在では、世界でおよそ250000人以上の患者さんが本治療を受けられているとされています。
これまでフランスでは17~8年以上、アメリカでは12年以上、日本では10年以上の歴史があります。 

 

> 子宮筋腫の動脈塞栓術の歴史についてはここをクリック

 

方法は、放射線科にある血管造影装置を使用して行います。
患者さんは、血管造影装置の上で、リラックスした状態で仰向けに寝て頂き、右大腿部の付根周囲を消毒した後、右股関節前面の皮下に局所麻酔をして、皮膚に5mm程度の切開を入れます。
次に細い針で大腿動脈を穿刺して、スパゲッティーの麺程度の細さで、ストローのような構造をした軟らかい管(カテーテル)を血管(動脈)内に挿入します。
そしてそのカテーテルを通じて、X線で認識される検査薬(造影剤)を流して、骨盤部の血管をX線撮影します。これを血管造影検査といいます。
引き続いて、術者は、X線透視画面(モニター)を見ながら子宮筋腫を栄養する子宮動脈までカテーテルを挿入した後、血管が閉塞するような物質(塞栓物質)をカテーテルを通じて子宮動脈に注入して、これを閉塞させます。
子宮動脈は、通常は左右1本づつ存在しますが、両側とも同様に閉塞させます。

 

この手技を動脈塞栓術といいます。
これは、子宮の疾患では分娩後の大量出血、子宮血管奇形や子宮癌による出血などに対して、低侵襲、安全、有効な治療法として20年以上の歴史があり既に確立している治療法です。
子宮筋腫に対しては、15年以上前より海外で応用され比較的新しい治療といえますが、手技としては、血管造影検査・動脈塞栓術を専門とする術者(放射線科医)にとっては、日常診療でこれまでに行ってきた手技といえます。

手技は平均60分程度で終了します。

 

術後はカテーテルを体外へ抜去し、ベット上で穿刺部からの出血を予防する目的から、およそ3~4時間程度は、カテーテルを挿入した右股関節部を圧迫し伸展しておく必要があります。
その後は、右下肢(股関節)の屈曲や体位変換が可能になりますが、通常はベット上でおよそ6時間程度の安静が必要です。その後は歩行ができます。

 

術直後から約半日間、治療による生理痛に似た強い下腹部痛が生じます。
その程度は様々ですが、ほとんどが鎮痛剤で自制内に制御でき一過性です。
また、術後数日から1週間程度、個人差がありますが、発熱、嘔気、嘔吐、全身倦怠、食欲不振などを伴うことがあります。しかし、これも時間とともに軽快していき一過性です。

 

大腿部の付根には縫う必要のない5mm程度の傷跡が通常1ヵ所残ります。

入院期間は、本院の場合は1泊2日です。

 

 

 Q 

 動脈塞栓術の治療効果はどうですか?

 A 

子宮筋腫は、動脈塞栓術によって栄養を絶たれるため85~90%の患者さんで、子宮筋腫による過多月経、不正出血、疼痛などの症状が改善し、短期・中期的に症状の改善は維持されます。

過多月経や不正出血などの出血の症状は、大半の方で動脈塞栓術直後より改善しえます。一方、少数の方は、これらの症状が改善するするまでに数ヶ月以上かかります。

子宮筋腫の大きさ(体積)は、いくつかの報告によると、85~90%の患者さんで3ヶ月後にはおよそ50%、1年後にはおよそ30%の大きさ(体積)に縮小するとされています。そして本治療に奏効した子宮筋腫は縮小したまま再び大きくなることはないと報告されています。

本治療の目的は、子宮筋腫由来の重い症状を緩和させ、維持させることにあります。

 

 

 Q 

動脈塞栓術後、子宮筋腫はどのようになっていきますか?

 A 

子宮筋腫は、大半が子宮動脈から栄養を受けています。両側の子宮動脈を塞栓すると、子宮筋腫への酸素と栄養が絶たれますので、子宮筋腫は変性(細胞の活性が不可逆的に失われた状態、ひらたく言えば「枯れた状態」)あるいは無菌性の壊死組織に陥ります。このため子宮筋腫は経時的に収縮していきます。

 

 

 Q 

動脈塞栓術後、正常な子宮組織はどうなりますか?

 A 

正常な子宮組織は、子宮動脈だけではなく、卵巣動脈や、膣動脈などの様々な骨盤内の動脈からも栄養を受けています。このため動脈塞栓術によって子宮動脈を閉塞させても、これらの他の動脈(バイパス)から栄養が供給されますので、正常な子宮組織は概ね温存されます。

 

 

 Q 

動脈塞栓術の適応はどうですか?

 A 

当科では、現在は以下の条件を満たす場合に本治療法を行っています。

  1. 子宮筋腫が存在する。
  2. 子宮筋腫による過多月経、疼痛、圧迫症状などの臨床症状があり、薬剤よる対症療法でコントロールができない。
  3. 将来の妊娠・分娩を希望しない。
  4. 外科的手術(子宮全摘術や筋腫核出術)を希望しない。
  5. 現在妊娠をしていない。
  6. 子宮癌検査が陰性である。
  7. 閉経前である。

 

 

 Q 

どのくらいの大きさの子宮筋腫ならば、治療効果が期待できますか?

 A 

動脈塞栓術は、子宮筋腫の大きさに関係なく、症状の改善が期待できます。

 

 

 Q 

子宮筋腫によっておへそを越えたような巨大な子宮の場合、動脈塞栓術は適応外ですか?

 A 

動脈塞栓術は、子宮筋腫の大きさや部位に関係なく適応があり、症状の改善が期待できます。
ただし大きな子宮筋腫は、術後縮小しますが、元々の大きさに比例して死んだ筋腫として残ります。

 

 

 Q 

動脈塞栓術の優れた点はどこですか?

 A 

  1. 局所麻酔だけで行えます。(全身麻酔を必要としません)
  2. 85~90%以上の患者さんで、深刻な過多月経、不正出血、疼痛などの子宮筋腫由来の症状が改善し、子宮筋腫も数ヶ月から半年後には平均で半分以下の大きさに縮小します。
  3. 外科的手術と比べ低侵襲な治療です。このため入院期間は短期になります。(本院の場合は、入院期間は1泊2日になります)そして早期(1~2週間後)に社会復帰ができます。
  4. 子宮筋腫は、子宮の粘膜下、筋層内,漿膜下の様々な部位にできますが、どの部位であっても治療が可能です。
  5. 子宮筋腫の数については制限なく、一度ですべての筋腫に対して治療効果が及びます。
  6. 治療に奏効した場合(85~90%が奏効)には筋腫が再増大したり、症状が再燃したという報告はこれまでにはありません。
  7. ホルモン剤を使用しません。
  8. 体や子宮にメスを入れません。このため体表に美容上目立つような傷痕が残らず、またそれによる痛みやかゆみもほとんど生じません。
  9. 重症の貧血を合併していても、治療を行うことができます。
  10. 過去に骨盤内の外科的手術を行っていても、治療を行うことができます。

 まとめると、本治療法は外科的手技を用いずに、『体に悪影響を及ぼす子宮筋腫』から『体と共存し得る“おとなしい子宮筋腫”』へと変化させ、しかも子宮を温存させる治療法といえます。

 

 

 Q 

動脈塞栓術が奏効しないのはどういう場合ですか?

 A 

10~15%程度で本治療は奏効しません。その理由は以下のとおりです。

  1. 技術的に子宮動脈にカテーテルを挿入できない、十分に子宮動脈に塞栓物質を注入できない、または子宮動脈が元々欠損しているために、左右両方の子宮動脈を塞栓できないことが1~5%、平均数%の確率で生じえます。この場合には、一般に筋腫への十分な塞栓効果は期待できませんので、症状の十分な改善が得られないことがあります。
  2. 技術的に左右の子宮動脈の塞栓に成功しても、a)症状の原因となっている子宮筋腫が元々子宮動脈以外の動脈からも栄養を受けてた、b)塞栓した子宮動脈が術後早期に再開通する、c)不十分な塞栓などの様々な要因から、筋腫が十分には塞栓されないことが生じえます。このような場合、症状の十分な改善が得られなかったり、一時的に症状の改善があっても、症状の再燃が生じることがあります。
  3. 症状の原因が、子宮筋腫以外の疾患(子宮内膜の疾患、子宮肉腫(悪性腫瘍)、子宮内膜症、子宮腺筋症など)である場合には、症状の改善が得られなかったり、一時的に症状の改善がみられても、症状の再燃が生じえます。特に子宮腺筋症の合併は不成功の原因になることが報告されています。

 

 

 Q 

動脈塞栓術の合併症はどうですか?

 A 

  1.  2008年3月現在、世界中でこれまでに250000人以上の女性が本治療を受けていますが、術後30日以内の死亡は10~12名とされています。2名は敗血症(重篤な感染症)、およそ10名は術後の肺塞栓症によるものです。これらは、いずれも海外で生じています。本治療による死亡率は、従来の外科的治療と比べると、低い数字です。
  2. 術後感染症(子宮内感染症、膿瘍など)が、軽度のものから重度のものまで含めると、数%程度の確率で生じるとされてます。術後数週間以内の比較的早期に生じるものと、3)のように術後比較的晩期(数日~4年)に粘膜下筋腫が子宮内腔へ脱落・分娩することに伴って生じるものとがあります。
    感染症の程度は様々ですが、その多くは、抗生物質などの保存的治療で制御できます。しかし、制御できない重度の場合には、子宮全摘術などの外科的手術が必要となります。
  3. 術後稀に、治療により梗塞(血流のない状態)に陥った粘膜下筋腫や、(子宮内膜に近い)筋層内筋腫の一部が子宮内腔に脱落したり分娩したりします。頻度はおよそ5%前後とされています。
    多くの場合、これは自然と経腟的に排泄され、特別な処置は必要としません。
    一方、稀に脱落した筋腫が経膣的に排出されずに子宮内腔に残存したり子宮頚管を塞いでいる状態になった場合や、筋腫分娩になっている場合には、子宮内感染症の原因となりますので、子宮鏡などを用いて経腟的に筋腫を除去する必要があります。除去すれば、術後経過は良好と報告されています。
    しかし、これに重度の難治性感染症が合併したり、筋腫の経腟的な外科的切除が困難であれば、子宮全摘術が必要になります。
  4. 術後に無月経や卵巣機能不全(更年期障害など)が生じる場合があります。
    一過性の無月経が生じる確率は、5~10%と報告されています。
    永久的な無月経が生じる確率は、45歳以下の方で0~3%、45歳以上の(比較的更年期に近い)方で、7~14%と報告されています。
  5. 術後に動脈塞栓術の合併症で子宮全摘術を必要とする頻度は、これまでの報告によると、およそ1~2%以下です。その原因の大半は、抗生物質で制御できない感染症が生じた場合と、重篤な子宮損傷が生じた場合です。
    アメリカの放射線科医の学会(SIR)は、2000年10月までに世界で動脈塞栓術を受けた10501人の患者さんのうち術後1ヶ月以内に外科的手術を必要とした患者さんは0.38%であったと報告しています。
  6. 子宮(内膜・筋層)の重篤な損傷が稀に生じえます。その程度が重度であれば、子宮全摘術が必要になる場合もあります。
    子宮内膜は、術後も保たれますが、最近のいくつかの報告によると、1)内膜の萎縮、2)内膜の部分的な壊死、3)内膜どうしの癒着、4)筋腫に接した内膜の部分的な欠損が生じることがあります。その頻度は現在は不明です。1)2)3)が重度であれば、過少月経や不妊症の原因になりえます。4)が生じれば、慢性的な帯下(多くは微量)の原因になることがあります。
  7. その他の合併症としては以下がありますが、稀です。
    ・造影剤による副作用(アレルギー、ショックなど)
    ・カテーテル操作による血管損傷
    ・目的としない動脈への塞栓物質の注入による他臓器などの損傷
    ・術後の下肢の深部静脈血栓症や、肺塞栓症
    ・カテーテルを挿入した部位の血腫・感染・仮性動脈瘤
    ・使用する薬剤(麻酔薬、鎮静薬、鎮痛剤、抗生物質など)による副作用

 

 

 Q 

動脈塞栓術後の痛みはどのようですか?

 A 

  1. 治療直後より子宮筋腫は梗塞に陥り、子宮も一過性に虚血になりますので、これによって下腹部に生理痛に似た強い疼痛がおよそ術後6~12時間は必ず生じます。特に治療直後から1~2時間が最も強くなります。また腰痛を伴うこともあります。これは十分な治療効果が得られているサインのひとつでもあります。
    この強い疼痛に対しては、比較的強い鎮痛方法(塩酸モルヒネなどの静脈・筋肉注射、あるいは硬膜外麻酔)で自制内に制御していきます。翌朝になると著明に軽減していきます。
    本院では、塩酸モルヒネと鎮静剤の注射で対処しています。
  2. 術後、数日から1週間程度は、軽度から中程度の周期的な下腹部痛(生理痛に似た鈍痛)が生じます。これに対しては比較的軽い鎮痛方法(経口の鎮痛薬や座薬)で制御していきます。この下腹部痛は、時間とともに徐々に軽減していき、およそ1週間程度で消失します。なかには完全に消失するまで数週間程度かかる場合もあります。 しかし、これらの疼痛は、すべて一過性です。

 

 

 Q 

動脈塞栓術の短所はどうですか?

 A 

  1. 上記の合併症の可能性があること。
  2. 10~15%程度で本治療が奏効しないこと。
  3. 筋腫を切除しないため、病理組織による診断が得られないこと。
  4. 治療にX線を使用すること。

 

 

 Q 

検査と治療に使用するX線の影響はどうですか?

 A 

血管造影検査と動脈塞栓術は、X線を利用して骨盤や子宮の動脈を写し出した画面や写真を参照しながら行う検査・治療です。
子宮筋腫の動脈塞栓術に使用するX線の量は、発表されたデータによると、卵巣に対しては平均10~20cGyという量で、患者さんの健康に問題はないとされています。
術者(放射線科医)は、X線の使用について教育・訓練を受けており、できる限り少ないX線で本治療を終了させます。

 

 

 Q 

動脈塞栓術後に癒着は生じますか?

 A 

本治療は、外科的手術と異なりお腹の中を直接触りませんので、骨盤内臓器(大腸・小腸・膀胱・尿管・卵管など)に悪影響を及ぼすような重篤な癒着は生じないとされてきました。
しかし、本治療後に開腹手術がなされた後、漿膜下筋腫・子宮と周囲の組織との間に、癒着が認められたという報告があり、癒着が顕著であれば、慢性的な疼痛などの原因になりえます。

 

 

 Q 

動脈塞栓術は何科の医師が行うのですか?

 A 

子宮筋腫に対する動脈塞栓術は、一般に血管造影検査と動脈塞栓術の専門的な訓練を受け、その豊富な知識と経験のある”放射線科”の医師が行います。

 

 

 Q 

動脈塞栓術後、仕事や運動はいつ頃からできますか?

 A 

日常生活・社会生活へ復帰は、平均で10~14日程度と報告されています。
個人差はありますが、通常、家事、デスク・ワーク、車の運転、遠出などは、術後1週間目頃から可能です。激しい運動や肉体労働は、術後2週間目頃から可能です。

 

 

 Q 

動脈塞栓術後、妊娠・分娩能は保たれますか?

 A 

子宮筋腫の動脈塞栓術は、これまで大半が出産を終えて将来の妊娠・出産を希望しない患者さんを対象に行われてきました。(本治療を受けられた女性の平均年齢は、多くの研究で42~44歳です。)
このため本治療後に妊娠・出産を計画された方はごく少数です。その潜在的な数もはっきりしておりません。

これらの背景から、本治療後の妊娠率・出産率は現在十分ではありません。また本治療が妊娠・出産に及ぼす影響も十分には解明されておりません。

 一方で、動脈塞栓術は、必ずしも将来の妊娠・出産の可能性を閉ざす治療法ではありません。
これまで本治療後に妊娠された方は世界で少なくとも100名以上いることが報告されています。

 

 

 Q 

妊娠・出産を希望しますが、動脈塞栓術の適応はありますか? 

 A 

現時点では動脈塞栓術後の妊娠・出産についての治療成績と安全性について科学的なデータが十分ではありませんので、将来の妊娠・出産を希望される方に対しては、当科では原則として適応から外しています。

本治療後、以下が生じると妊娠・出産は望めなくなったり、妊娠・出産に対する負の影響が生じます。 

  1. 子宮全摘術を必要とする合併症(難治性感染症など)が生じた場合:およそ1%程度
  2. 重篤な子宮損傷:およそ1%以下(その程度によっては子宮全摘術が必要となる場合あり)
  3. 永久的な無月経や卵巣機能不全:40歳以下の方でおよそ1%
  4. 子宮内膜の萎縮・壊死、内膜どうしの癒着、子宮壁の部分的欠損:頻度は不明ですが、報告例あり。
  5. 妊娠中の合併症:流産、早産、胎位異常、胎盤の異常(前置胎盤、癒着胎盤など)、胎児発育遅延、帝王切開、子宮破裂、分娩後出血など、いくつかの報告例あり。
  6. 本治療が奏効しない、あるいは筋腫が再発し症状が制御困難となり、子宮全摘術しか治療法がなくなった場合。

 

 

 Q 

現在妊娠していますが、動脈塞栓術は受けられますか?

 A 

現在妊娠しておられる方は、動脈塞栓術は禁忌であり受けられません。また妊娠の可能性のある方も同様です。動脈塞栓術を受けられる際には、妊娠していないことが前提であり、必ず事前の避妊が必要です。

 

 

 Q 

閉経後ですが、動脈塞栓術の適応はありますか?

 A 

閉経を迎えると、エストロゲンという卵巣ホルモンが減少していきますので、子宮筋腫は自然と縮小し、それに伴う症状は軽減していきます。このため閉経後は、動脈塞栓術を含め、子宮筋腫に対する治療は一般に必要ありません。

ただし、閉経後に症状が増悪したり腫瘤が増大する場合には、子宮筋腫以外の別な疾患を考える必要がありますので、精密検査を受けられることをお勧めいたします。

 

 

 Q 

動脈塞栓術の術前には、MRI検査は必要ですか?

 A 

MRIは、子宮筋腫の大きさ、数、内部の性状、部位を詳細に客観的に評価できる精度の高い画像診断検査です。特に子宮筋腫と非常によく似た子宮腺筋症という病気と、子宮筋腫を鑑別するのに有効です。(両者の治療法は異なります)。
その他、子宮や卵巣などの骨盤内病変を客観的に評価できます。
このため当科では、術前に必ずMRIを行っております。また術後の治療効果判定にもMRIを行っています。

 

 

 Q 

重度の貧血がありますが、動脈塞栓術の術前や術中に輸血をすることはありますか?

 A 

貧血は動脈塞栓術の支障にはなりません。このため貧血がどの程度であっても術前・術中・術後に輸血は行いません。術前・術後に鉄剤を処方することはあります。

 

 

 Q 

動脈塞栓術の術前や術後には、ホルモン療法を併用しますか?

 A 

ホルモン療法は、術前にも術後にも併用しません。

 

 

 Q 

リュープリンによるホルモン療法を受けていますが、動脈塞栓術は受けられますか?

 A 

リュープリンなどによるホルモン療法(偽閉経療法)を受けておられる方の場合は、子宮動脈が通常よりも収縮しているため、カテーテルの挿入が困難になるばかりか、動脈塞栓術の治療効果も乏しくなります。従って子宮動脈が元の状態に戻る時期、すなわち最後のリュープリンを打ってから3ヶ月以降に動脈塞栓術を行うのが効果的です。

 

 

 Q 

核出術後、子宮筋腫が再発していますが、動脈塞栓術は可能ですか?

 A 

再発した子宮筋腫に対しても、動脈塞栓術の適応はあります。

 

 

 Q 

どういう場合、動脈塞栓術の適応から外れますか?

 A 

以下の場合、当科では動脈塞栓術の適応から外しています。

  1. 子宮筋腫による症状のない方。
  2. 将来の妊娠・分娩を希望されている方。
  3. 閉経後の方。
  4. 筋腫分娩、有茎性粘膜下筋腫の方。(これらは、一般に子宮鏡を用いて筋腫のみを切除するのが第一選択です。しかし、これが困難な場合には、動脈塞栓術は第二選択になる場合もあります)
  5. 骨盤内に感染症がある方。
  6. 悪性腫瘍がある方、あるいは悪性腫瘍が強く疑われる方。
  7. 動脈塞栓術よりも適した他の治療法がある場合。

 

 

 Q 

生理中ですが、動脈塞栓術は受けられますか?

 A 

月経周期のどの時期でも、動脈塞栓術は受けられます。生理中であっても支障はありません。

 

 

 Q 

多発性の子宮筋腫ですが、動脈塞栓術の治療効果はどうですか? 

 A 

動脈塞栓術は、子宮筋腫が単発であろうと数十個あろうと、一度の治療ですべての子宮筋腫に治療効果が及びます。手技の内容も、子宮筋腫の数に関係なく同一です。

 

 

 Q 

子宮筋腫の動脈塞栓術は健康保険が通りますか? 

 A 

承認された球状塞栓物質を使用した場合、本治療は健康保険が適応されます。
現在、当科では全例保険診療で本治療を行っています。

 

 

 Q 

動脈塞栓術後、子宮筋腫は再発しますか? 

 A 

動脈塞栓術は世界で既におよそ15年以上の歴史がありますが、治療に奏効した場合(85~90%が奏効)には、完全に塞栓された筋腫(壊死した筋腫)が再増大したり、症状が再燃したという報告はありません。

しかし長期的に追跡した最新の研究によると、以下のようなことが報告されています。

  1. 完全には塞栓されなかった筋腫の再増大
  2. "筋腫の芽"のような小さな筋腫の増大
  3. 新たな筋腫の出現

これらの筋腫は、閉経まで増大していく可能性はあり、中・長期的に、症状再燃の原因になりえます。
しかし、筋腫の症状は、主に筋腫の部位や大きさに関係しますので、1)~3)が生じても症状再燃が必ずしも生じるわけではありません。
筋腫や症状の再発率や、再発までの期間などの詳細な長期的な治療成績は現在は確立していません。

筋腫が再増大・再発しても、必ずしも再治療が必要になるとは限りませんが、日常生活に支障のある筋腫由来の重い症状が再燃すれば、以下の治療の選択肢があります。

  1. 対症療法(鎮痛剤、止血剤、鉄剤、漢方など)
  2. 外科的手術(子宮全摘術、核出術など)
  3. ホルモン療法(偽妊娠療法、偽閉経療法)
  4. 再動脈塞栓術
  5. 集束超音波治療

なお本治療後は、子宮が温存されますので、症状の再燃は、必ずしも筋腫由来とは限らず、筋腫以外の新たな子宮の疾患(悪性腫瘍、子宮内膜の疾患、腺筋症など)や、その他の骨盤内疾患(子宮内膜症、卵巣の疾患、腸の疾患、膀胱の疾患など)によっても生じえますので、十分な再評価が必要です。

 

 

 Q 

動脈塞栓術後、治療した筋腫が体内に残って問題はありますか? 

 A 

動脈塞栓術後は、子宮筋腫は変性・無菌性の壊死組織(死んだ状態)になりますので、人体に悪影響は及ぼしません。

多くの子宮筋腫は、自然経過中でも部分的に変性・無菌性の壊死を伴っています。そして大半の女性は、これによる問題を伴わずに一生を終えます。
この子宮筋腫の自然史と、動脈塞栓術の10年の歴史は、治療後に変性・無菌性の壊死となった子宮筋腫が体内に残っても問題がないことを示しています。

ただし、粘膜下筋腫が、術後に子宮内腔に脱落したり分娩した場合には、下腹部痛や感染の原因になりえます。また残存した筋腫によって症状が十分には改善しないこともありえます。この際には適切な追加治療が必要になります。

 

 

 Q 

動脈塞栓術後、生理はどうなりますか? 

 A 

動脈塞栓術後は、子宮が温存されますので、生理は保たれます。
子宮筋腫による過多月経のあった方は、初回の生理から著明に改善しえます。
一方、術後数回の生理は、期間や間隔が不整になったり、少数の方で生理痛が増強したり過多月経となる場合がありますが、これらは多くの場合一過性です。

しかし、45歳以上の比較的更年期に近い女性や、卵巣予備能が低下した女性の場合には、そうでない女性と比べると、術後に一過性あるいは永久的な無月経などの生理不順が生じる可能性は高くなります。

 

 

 Q 

血管を詰める物質(塞栓物質)は何を使用しますか?

 A 

子宮筋腫の動脈塞栓術では、以下の塞栓物質(血管を詰める物資)が使用されています。

  1. ポリビニル・アルコール (polyvinyl alcohol: PVA)
  2. 球状塞栓物質(エンボスフィア、DCビーズ、など)
  3. ゼラチン・スポンジ (gelatin sponge)

当院では、現在は球状塞栓物質(エンボスフィア)のみを使用しています。

 

 

 Q 

子宮腺筋症と診断を受けていますが、動脈塞栓術の適応はありますか? 

 A 

子宮腺筋症は、子宮内膜が子宮筋層内に増殖した子宮内膜症です。子宮筋層内の平滑筋細胞から発生した子宮筋腫とは別な疾患です。 

子宮腺筋症に対する動脈塞栓術の治療成績は、最新の研究では、子宮腺筋症単独では、短期的には83.3%、長期的には64.9%、子宮腺筋症と子宮筋腫の合併例では、短期的には92.9%、長期的には82.4%の方で、治療効果が期待できると報告されています。

子宮筋腫と比べると、子宮腺筋症の方が、UAEの治療成績は劣ります。

当科では、子宮腺筋症に対する本治療は、上記のことを十分理解して頂き、適応を個々に評価したうえで行っています。

 

 

 Q 

動脈塞栓術を行っている近くの病院はありますか?

 A 

本治療は、現在、全国の様々な医療機関で行われています。
Googleなどの検索サイトを使用して、「子宮筋腫」、「動脈塞栓術」、「UAE」の単語で検索されれば、ある程度の情報は得られます。

 

 

 Q 

動脈塞栓術後、子宮筋腫が再発して症状が再燃していますが、子宮動脈塞栓術を再度行うことは出来ますか? 

 A 

子宮動脈が再開通していれば、子宮動脈塞栓術を再度行うことは可能です。
短期・中期的には症状の改善は望めます。 

ただし、2度目の塞栓術の際には、十分な治療効果をあげるには卵巣動脈などのバイパス血管も同時に塞栓する頻度はやや高くなります。